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Lubricate us with mucus. ──2nd season 盈則必虧編

   汝自己のために何の偶像をも彫むべからず

( ゚Д゚)<ツッパらない HIGH SCHOOL ROCK'N'ROLL

「しかし、言葉遣いがいよいよもって粗野に、露骨に、平板になりつつある、と近頃ひんぱんに嘆かれている現象の原因は、じつは人間どうしの好意の欠如にあるのではなくて、むしろ悪意の洗練の欠如、にあるのではないか。悪意に人心が荒廃していると言うよりも、悪意そのものが荒廃しているとまず言うべきではないか、と私は考える者である。いや、荒廃などという言葉をつかうと退廃の感じがともなうが、実際はまだまだ、なまなかの慨嘆など撥ねかえすだけの活力に満ち満ちており、むしろ、手入れが悪くて草茫々になっているという趣である。
 今の世の中では、人は他人にたいして、善意にふやけるか悪意に凝り固まるか、お目出たいか毒々しいか、そのどちらかへとかく偏りやすい。ことにひとたび悪意を抱くと、好意とのバランスを取る戦術にも疎く、こらえ性も乏しく、たちまち心の芯まで喰いこまれてしまう。おまけに、自分ではずるいつもりでいても、あんがい率直で、ちょっとしたはずみで悪意を悪意のまま、ポロッと吐き出してしまう。美しい言葉遣いというのはそれとは正反対のもの、つまり、我身の悪意をもてあまさず、抱きしめもせず、好意との微妙な接点において、少なくとも人の耳に美しいものへと《丹精》する態度、なのではないか。」
(古井由吉「はじめに悪意ありき」)
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