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Lubricate us with mucus. ──2nd season 盈則必虧編

   汝自己のために何の偶像をも彫むべからず

( ゚Д゚)<悪魔にしかできない芸当

「単なるエゴイズムというものは、肉慾の最後の場でも、低級浅薄なものである。自分の陶酔や満足だけをもとめるというエゴイズムが、肉慾の場に於ても、その真実の価値として高いものでは有り得ない。真実の娼婦は自分の陶酔を犠牲にしているに相違ない。彼女等はその道の技術家だ。天性の技術家だ。だから天才を要するのだ。それは我々の仕事にも似ている。真実の価値あるものを生むためには、必ず自己犠牲が必要なのだ。人のために捧げられた奉仕の魂が必要だ。その魂が天来のものである時には、決して幇間の姿の如く卑小賤劣なものではなく、芸術の高さにあるものだ。そして如何なる天才も目先の小さな我慾だけに狂ってしまうと、高さ、その真実の価値は一挙に下落し死滅する。
 …………
 私はそのころ最も悪魔に就て考えた。悪魔は全てを欲する。然し、常に充ち足りることがない。その退屈は生命の最後の崖だと私は思う。然し、悪魔はそこから自己犠牲に回帰する手段に就て知らない。悪魔はただニヒリストであるだけで、それ以上の何者でもない。私はその悪魔の無限の退屈に自虐的な大きな魅力を覚えながら、同時に呪わずにはいられなかった。私は単なる悪魔であってはいけない。私は人間でなければならないのだ。
 然し、私が人間になろうとする努力は、私が私の文学の才能の自信に就て考えるとき、私の思想の全部に於て、混乱し壊滅せざるを得なかった。」
(坂口安吾「いずこへ」)
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