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Lubricate us with mucus. ──2nd season 盈則必虧編

   汝自己のために何の偶像をも彫むべからず

( ゚Д゚)<回帰しつづける泣き言

「さて、肝心なことですが、兄さん、ぼくはたぶん今月は書けないでしょう。この論文ばかりでなく、今月は批評欄には何も書きません。兄さんの手紙に「年代記者の覚え書」のことが書いてありましたが、あれはすばらしい考えです、だが、ぼくはすべて後まわしです、今はだめです。いずれ利息をつけて返しますが、今はすこし待ってもらわねばなりません。ぼくはいま中編を書いていますが、それだって苦労なのです。兄さん、ぼくは先月の大半は病気でした、そして快くなってきたのですが、ほんとのところ、いまだにすっかりは回復していないのです。神経が衰弱して、今でもまだ力を集中できないのです。あらゆる苦しみが今は堪えがたいほどで、それを口にする気にもなれません。妻は文字通り死にかけています。もうだめかと思う時が、毎日です。妻の苦しみようは恐ろしいほどで、それがぼくの胸にこたえるものですから……書くということは機械的な仕事ではありません、それでもぼくは書いています、書きつづけています、毎日午前中、でもまだ緒についたばかりです。中編はしだいに伸びていきます。どうかすると、つまらないものになりそうな気がすることがありますが、それでも熱をこめて書いています。どんなものができるか、わかりません。それでもやはりこの作品が時間を喰いすぎるのは、困ったものです。せめて半分でも書き上げたら、組版に送ります。でもぼくは全部を一時に発表したいのです。それが sine qua non(必要条件)です。総じて書く時間が少ないのです。ぼくの時間がすべてぼくのもののように思われるのですが、それでもやはり少ないのです。というのは今がぼくにとって執筆の季節じゃないのと、ときどきほかのことが頭に浮んで集中できないからです。もう一つ、妻の死が早晩訪れるのではないかと心配です、そうなれば否応なしに仕事は中断されます。もしこの中断がなければ、書き上げられると思いますが、はっきりしたことは何も言えません。仕事が今どんな状態にあるかという事実だけを知らせます。あとはよろしくご推察ください。」
(ドストエフスキー「兄ミハイル宛書簡 一八六四年四月二日」)
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