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Lubricate us with mucus. ──2nd season 盈則必虧編

   汝自己のために何の偶像をも彫むべからず

( ゚Д゚)<未来を望まない情熱

「「じゃ、どうして粘っこい若葉を愛せるんです? どうやって兄さんは生きてゆくつもりなんです?」〔劇詩「大審問官」をきいたあと、思わずアリョーシャがイワンに向かって叫ぶ言葉。第二部第五篇第五章〕
「カラマーゾフ流にさ」
「つまり、すべては許される、ですか?」
「すべては許されるさ。俺は神の理念を完全に粉砕してやりたいね。そうじゃない、カラマーゾフ流にさ、三十までは高潔さのニュアンスも十分もつからな」
「で、その先は?」
「肉欲か、名誉欲か、残忍さかの悪臭に身を沈めるさ、でなけりゃカードを好きになるか、あるいは……」
「あるいは?」
「あるいは、自分自身を抹殺するかだ」
「俺はいろいろ考えてみた──そりゃ勝負ごとにのめりこんでチェスに夢中なることも、銀行家になって株の投機をやることも、宮廷の侍従になることも、できるだろうさ。しかし、そんなことは俺には、俺やお前にはとても不可能だという結論に達したんだ。思想は死なないよ。蛆虫のように生きつづけるだろうさ。一つだけ、あることはある。それは、あらゆる結果をひっくるめた、残忍なまでの、犯罪にひとしいほど、マルキ・ド・サドにひとしいほどの、獣的な肉欲だよ。これでなら、まだ生きのびられるような気はする。しかし、そのためにはやはり、生命のすべてで自分の内に血潮の火をかき立てなけりゃならないが、かりにそれができるとしても、そいつは醜悪だから、自分を抹殺するんだ! 俺はね、三十までは生命の力によって、杯の魅力によって、つまり欺瞞によって、ひとりでに生きのびられるという考えに落ちついたけれど、なに、その先は自分を抹殺するさ。三十まではこのままでも生きのびるよ。天性の卑劣さに期待しているんだ。お前には率直に言うがね。俺はたとえ懲役にやられても、召使や奴隷に出されて、毎日頬びんたを喰らわされても、そんな場合だって、生きたいという俺の渇望は涸れつきないだろうよ。天性の卑劣さに期待しているんだ」
「呪わないでくれよ」
「どういうふうに生きてゆくつもりなんです?」
「カラマーゾフ流にさ(すべては許されている)」
「肉欲さ、しかし、だめかもしれない」
「兄さんにとっては、だめですよ」
「肉欲さ。親父みたいに獣的な陶酔に身を沈めるんだ。しかし、実に汚ないな。いっそ自分を抹殺するほうがましだ」」
(ドストエフスキー「『カラマーゾフの兄弟』創作ノート」)
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