「この視線は私を見るが、私はそれが私を見るのを見ないということ、それが非対称性である。この視線は、私自身の秘密を、私自身が見ないような場において知っている。その場においては、「汝みずからを知れ」が哲学的なものを反省性の罠に陥れている。その罠とは秘密の否認であるが、その秘密はつねに私にとっての［pour moi］秘密、すなわち他者に宛てられた［pour l'autre］秘密なのだ。何もけっして見ることのないような私にとっての、したがって、秘密が非対称性において委ねられる唯一の相手としての他者に宛てられた秘密。他者に宛てられたときには、私の秘密はもはや秘密ではないだろう。二つの pour はもはや同じ意味を持っていない。少なくともこの場合には、私にとっての秘密とは、私が見ることのできないもののことだ。他者に宛てられた秘密とは、他者にだけ委ねられるもの、他者だけが見ることのできるもののことだ。秘密を否認したとしたら、哲学は知るべきことの無知の中に身を落ち着けてしまうだろう。秘密なものがあるということ、秘密なものは知や認識や客観性とは同じ尺度では測れないものであることなどに関する無知の中に。」
（ジャック・デリダ『死を与える』）
