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Lubricate us with mucus. ──2nd season 盈則必虧編

   汝自己のために何の偶像をも彫むべからず

( ゚Д゚)<思考する恥辱

「終りに──絶望的状況のさなかにありながらも是認できる哲学の有り様は唯一つしかないと言っていい。それは万事を救済の立場から眺められたように考察する試みである。救いの境地からこの世に射し込んでくるそれ以外に認識にとっての光明はないので、他の一切は要するにテキストに基づく解釈の類、突き詰めれば一種の技術にすぎない。メシアが出現した暁にはこの世はみすぼらしいぶざまな姿をさらけ出すことになるだろうが、似たような位相においてこの世が転位され、異化されて、隠れていた割れ目や裂け目が露呈されるような遠近法を作り出さなければならないのである。恣意や強引に陥ることなく、ひたすら具体的な対象物との接触を通じてこうした遠近法を獲ち取ること、思惟にとっての眼目は、結局、この一点にしぼられるのだ。……しかしそれは一面において全くの不可能事でもある。なぜならそうした認識の有り様は、たとえほんの僅かにもせよ現存在の縄張りから解脱した立場を前提しているわけだが、実際における認識は、たんに現存在からもぎ取られたものでなければ拘束力を持たないというだけでなく、まさしくそうした現存在との関わりのために、なんとかして逃げ出したいと思っている現実のぶざまさやみすぼらしさに自らも腐蝕されているのが実態だからである。思想には無条件なもののために自らの条件づけられた有り様に対して殻を閉ざす傾向があるが、その傾向が激しければ激しいほど、自分でも気付かないで──ということはそれだけ取り返しのつかない形で──現世の虜になっているものだ。思想は、可能性のためには、自身の不可能性さえもしかるべく理解していなければならない。そのために思想に課せられる要求の大きさに比べるなら、救済が現実性を持っているか否かなどという問題はむしろ取るに足らないのである。」
(アドルノ『ミニマ・モラリア』)
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