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Lubricate us with mucus. ──2nd season 盈則必虧編

   汝自己のために何の偶像をも彫むべからず

( ゚Д゚)<裏切り者の色気

「まず、アカデミー名誉賞とはなんなのか、名誉を与える、ということがどういうことなのか問うことから始めよう。その賞は、1999年に一度、正体を剥き出しにしている。エリア・カザン監督の受賞である。カザンは『エデンの東』『波止場』等で知られる名監督だ。彼が壇上にあがり、名誉を受けようとした瞬間、会場の映画人たちの反応は二分した。立ち上がり拍手を送る人々と、座ったまま壇上を睨みつける人々と。いったい、ここでなにが起こったのか? カザンは、身にある烙印を刻んでいたのだ。
 40年代から50年代のアメリカに吹き荒れた、「赤狩り」。非米活動委員会が煽動する、共産主義的なものならどんなものでも糾弾し抹殺する運動だ。すこしでも非愛国的であれば嫌疑がかけられ、テロリストの手先とみなされる。ハリウッド・アカデミーもまたこれに倣い、自分あるいは知人についての尋問に答えない者にはアカデミー賞を与えず、失職させると通告した。従うひとと戦うひとがいた。カザンは従ったのである。友人を裏切り密告することで現代の魔女狩りから逃げおおせたのである。
 99年の授賞式の分裂は、この烙印によって起こった。
 …………
 叛乱するひとびとがいる。非米活動委員会の尋問において、いっさいの証言を、友人を売ることを拒否した脚本家のドルトン・トランボ、プロデューサーのエイドリアン・スコットら10人の映画人のことを、ハリウッド・テン、と呼ぶ。ハリウッド・アカデミーですら映画人たちを見捨てて権力におもねるなか、それは決死の覚悟がいる行為だった。この叛乱にハリウッドは騒然となる。攻撃が始まる。彼らは映画界を追放される。そればかりか、犯罪者として監獄に入れられてしまうのだ。そして、裏切り者が出る。
 獄中、映画監督、エドワード・ドミトリクは、非米活動委員会への協力を表明する。転向である。そして友人たちの名を密告し、他の9人とは別に、身に裏切りの烙印を刻み生き延びる。
 いったい、カザンやドミトリクは単なる卑怯者なのだろうか。ハリウッド・テンとして追放された脚本家トランボは、その後は偽名で脚本を書いて活躍した。だが、大勢と協同して作業する監督に、それは不可能だ。そして、彼らはアメリカに根付いた家や、帰郷することのできる海外の家を持つ他の人々とは決定的に違っていた。カザンはトルコでの弾圧から逃れてきたギリシャ系の移民の子であり、ドミトリクはロシアから亡命してきたウクライナ系の移民の子である。身ひとつ才能だけで這い上がってきた彼らに、映画界にとどまる以外に何ができただろう?」
(nos/unspiritualized「名誉と叛乱」)
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