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Lubricate us with mucus. ──2nd season 盈則必虧編

   汝自己のために何の偶像をも彫むべからず

( ゚Д゚)<加速する失語症3

「ぼくはあれこれとプランを練る。ぼくがのぞきこむ空想の万華鏡の、空想の覗き穴から目を離さないために、ぼくはじっと目の前を見つめる。よい意図と手前勝手な意図とをごちゃまぜにする。よい方は色が褪せてしまうが、その代りにただの手前勝手な意図の方の色調に移って行く。ぼくのプランに参加してくれるように、ぼくは天と地とを招待する。しかしどんな横町からも引きだされて出てきて、さしあたりよりよくぼくのプランに役だってくれる人びとのことは忘れない。なんと言ってもまず書き出しだ。いつでもやはりまず書き出しだ。ぼくは相変わらずこの嘆きのなかに立っている。でもすでにぼくの背後には、ぼくのプランを積んだ馬鹿でかい車が着いていて、最初の小さな昇降段がぼくの足の下にゆっくり入ってくる。より幸せな国々のカーニヴァルの馬車にのっているような裸の娘たちが、ぼくを階段の上のうしろの方へ連れて行く。娘たちが宙に浮かんでいるのでぼくも浮かび、平静を命じる手を振りあげる。薔薇の茂みがかたわらにある。香をたく焔が燃えたち、月桂冠がおろされ、人びとはぼくの目の前や頭上に花をまき散らす。石像のような二人のラッパ手がファンファーレを吹き鳴らし、細民たちが指導者たちのあとから隊伍を組んで大勢走ってくる。がらんとして人気のない、きちんと区分けされた空席がたちまち黒くなり、人びとがうごめき、超満員になる。ぼくは自分が人間的努力の極限に達したのを感じ、高いところに立って、自発的に、そして突然わが身に備わった技能によって、何年も前に感心したことのある蛇男の曲芸をやる。つまり、ぼくはゆっくり体を反り返らせていって──天はそのぼくにふさわしい幻を生じさせるために今にもパッと開こうとするが、それは止む──頭と上体を自分の股の間をくぐらせて、しだいにまたふたたび直立した人間として立つのだ。それが人間に与えられている最後の高揚だったのだろうか? そうらしい。というのは、眼下に低く大きくひろがる国土のありとあらゆる門から、角の生えた小悪魔どもがどっと溢れ出てきて、一切のものを乗りこえて走ってくるのが、早くも見えるからだ。彼らの足に踏まれるとすべてのものが真中から割れ、彼らの小さな尻尾はあらゆるものを消し去り、たちまち五十の悪魔の尻尾がぼくの顔をこすり、大地は柔らかくなり、ぼくの片足がめりこみ、ついでもう一方の足も沈む。ぼくがぐんぐん垂直に沈んでいくその深い底へ向かって、うしろから娘たちの叫び声が追ってくる。穴の直径はちょうどぼくの体と同じだが、その深さには果てしがない。この果てしのなさは、いかなる特別な仕事へも唆しはしない。ぼくのやることはみなちっぽけなことばかりだろう。ぼくは意味もなく落ちて行く。それが一番いいことなのだ。」
(フランツ・カフカ『日記(一九一四年)』)
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