「前世紀の後半から今世紀にかけて「詩人」(Dichter)なる言葉に異常に高い精神的意味を与えたものは、詩人の自己意識をめぐる苛酷な苦行だった。孤独の内部において、詩人は自己の生の多様性からひとつの不変な自己についての意識を抽出し、これに彼の全的な生を捧げて奉仕し、一般の人間達が曖昧に人間的なと呼んでいるものへの配慮によってもその奉仕を妨げられなかった。そのようにして「詩人」は唯一にして、永遠な存在としての自己像を彼自身の死後に残そうとする。」
(古井由吉「「死刑判決」に至るまでのカフカ──ある詩人の「絶望」に至る過程」)