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Lubricate us with mucus. ──2nd season 盈則必虧編

   汝自己のために何の偶像をも彫むべからず

( ゚Д゚)<信仰の仮面をつけて

「人間の社会では、平時は金と名誉と女の三つを中心に総てが動いている。それらを得る為に人を押しのけて我先にとかぶり付いて行く。ただ、教養や色々の条件で体裁良くやるだけだ。それでも一家が破産したり主人公が死んだりすると、財産の分配等に忽ち本性を現し争いが起こる。
 戦争は、ことに負け戦となり食物がなくなると食物を中心にこの闘争が露骨にあらわれて、他人は餓死しても自分だけは生き延びようとし、人を殺してまでも、そして終いには死人の肉を、獣の肉、友軍の肉、次いで戦友を殺してまで食うようになる。
 平時にあっても金も名誉も女も不要な人は人望のある偉い人である。偽善者や利口者やニセ政治家はこのまねをするだけだ。世渡のじょうずな人はボロを出さずに、このこつを心得ている。戦時中に命も食物も不要な人は大勢の兵を本当に率いる事ができる人だ。こういう人を上官に仰いだ兵隊は幸いだった。負け戦で皆が飢えている時、部下に食物を分ち与える人、これは千人に一人いるかいないかだ。……
 どうにもならなくなった時、この一切れの芋を食わねば死ぬという時にその芋を人に与えられる人、これが本当に信頼のできる偉い人だと思った。普通の人では抜けられぬこの境地に達し得た人が真に人の上に立つ人だ。この境地に少しでも近づきたいものだ。修養の目的はここにあるのではないか。戦国の武将の偉い人にはこの事を心得ていて実行した人が多かったようだが、現代の武将には皆無といってよい位だ。こういう人には自然と部下ができ物質には不自由しないのが妙だ。だれかが「無一物中無尽蔵」といったが正に名言だと思う。この心境に至るには信仰以外に道はない気がする。人間とは弱いものだから。」
(小松真一『虜人日記』)
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