「増長。──増長と呼ばれて我々のあらゆる良い収穫を害するあの雑草の伸びることほど警戒すべきものはない、心情の篤実さ、敬意の表明、好意あるうちとけよう、愛撫、友情こもる忠告、過失の告白、他人への同情などの中にも増長があって、こういう美しい物もみな、あの雑草がその間に生えると反感を目覚ますからである。増長した者、つまり自分が実際にあり或いは認められているところより大したものでありたがる人は、いつも誤算をやる。たしかに彼は、彼の増長の相手になっている人たちが臆病か安易さから彼に求められる度合の尊敬を大抵与えてやっている限りは、瞬時の成功をおさめはする、しかし彼らは彼の過分に求めただけの分量をこれまで彼に認めていた価値からも差し引いてしまうので、結果は性の悪い返報ということになるわけだ。およそ屈辱を与えることより人々にひどい値につくものはない。増長している者は彼の実際の大きな功績をまでひどく人目に怪しませ、小さく見せて、人々は土足でそれを踏みにじるほどになりかねないのである。──誇らかな振舞いでさえ、誤解されて増長と見られることがないと十分確信できるところ、たとえば友人や妻の前などでしか気を許して見せてはなるまい。人々とのつきあいでは増長という印象を与えるよりひどい愚はないからである、それは慇懃に嘘をつくことをしなかった時よりももっとひどいことになる。」
（ニーチェ「人と交る人間」）
