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Lubricate us with mucus. ──2nd season 盈則必虧編

   汝自己のために何の偶像をも彫むべからず

( ゚Д゚)<暗闇のなかで子供

「何か書くことがあるとき、そうして「哲学」を幾らか同封できるときに、書簡拝呈しようと思っていました。ところが時は過ぎ、書き物は捗々しく進まず、ニュースは皆無ときています。「哲学」は、最初の重要な数章を終えたあとでお送りすることになろうかと思います。「神」と悪魔が、私の関心を惹いてやみません──殊に悪魔、それに不死が、です。それを「哲学」に書かぬわけにはゆきませんが、今はずっと暗闇で闘っております。──闇のなか深く、全ての人間と事物から切り離されて──。時折、一日か二日、光のなかによろぼい出るように見えると、再度突入する。一体どこに、どんな混沌の全き闇に跳び込むのかも知らずに──。そのことは余り気になりませんが、その闇のなかにある生々しい怖ろしいものが、ときどき恐くなるのです。それから私の眼に見えるこの事物に全く現実味がないことが──。私はその間中ずっと、非現実の世界の蒼白い塊のなかを──この家と家具と空と地面を──歩いており、他方自分自身は、常にどきどきして息づく一片の闇であり、その衝撃と闇がリアルなのだということが分ると、ついにそれは狂気のようになる。闇の全宇宙と暗い情熱──地下の宇宙にして煉獄ではないもの(なぜなら煉獄は死後のものですから)──いまだ存在の形を取っていない事物の地下の暗黒の宇宙──それがいまは勝利を収め、私はそれから逃れられない。だから、誰かに話さねばならないと思うと怖ろしくなるのです。なぜなら私には口が利けないから──。
 私がこの手紙を書いたのは、暗闇のどこかで私と一緒にいて下さいと言うため──。或いはともかく、私を待っていて下さいと言うためです。私の手を離さないで下さい。それが全てです。その生々しいものに満ちた闇のどこかで、私との関係を保っていて下さい。何かとても重要なものが──何か経験しなければならぬものがあると感じるのです。それは私の魂のなかだけのことなのかも知れませんが、しかしそれは日を追う毎に明瞭に浮び立ち、今日の日なか、現実はいっそう希薄になり、あたかも私は墓のなかから便りをしている──或いは胎のなかから、(いずれも、両極端にある同一のものですから)──そんな気がするのです。願わくば、私に一種の忠誠を誓って下さらんことを。
 傘、どうも有難うございました。」
(D.H.ロレンス「バートランド・ラッセル宛書簡」)
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