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Lubricate us with mucus. ──2nd season 盈則必虧編

   汝自己のために何の偶像をも彫むべからず

( ゚Д゚)<生活は嘘

「コニーはわが家、ラグビー邸の方へゆっくりと戻っていた。「わが家」、この言葉はこの大きなものさびしい屋敷にたいして使うにはあまりに暖かい言葉だった。かつては、その言葉がしっくりとあてはまったこともあった。だがもう今ではそれは意味のない言葉だった。コニーは自分の時代の人間にとっては、あらゆる偉大な言葉が意味を失っているような気がした。恋愛、喜び、幸福、家庭、母、父、夫、これらすべての力強い言葉が、今では半死半生の状態にあり、日々死滅に近づいてゆく。家庭とは暮らしている場所のことであり、恋愛とはその中で自分を失うまでになれないものであり、喜びとは上手なチャールストンにつけた名であり、幸福とは他人を煙に巻く偽善の言葉であり、父とは自分自身の存在のみを享楽した人間のことであり、夫とはいっしょに暮らして精神的に交際している人間のことなのだった。そしてセックスという最後の偉大な言葉は、一瞬間だけ人をけしかけて、それから後にはさらにみじめな思いをさせる興奮に使うカクテルの名前であった。すり減ったものばかりだ! 人間の身体を組織している材料は、みな安っぽいものばかりで、たちまちすり減って無に帰するものばかりだった。
 ほんとうに残っているものは、ただ頑迷なストイシズムだけであった。そしてその中にはある種の快楽があった。次々に場面がうつり変る人生のうつろな経験の中にも、それぞれの場面の中にぞっとするような満足がある。そういうわけなのだ。──いつでもこれが最後の言葉だった。家庭、愛、結婚、マイクリス。そういうわけなのだ。──そしてひとの死ぬときの、最後の言葉はまた、そういうわけなのだ、であろう!」
(D.H.ロレンス『チャタレイ夫人の恋人』)
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