「勤倹貯蓄が美徳だということはよく言われてきたことですが、たいへんこれには言葉のアヤが多いので、実際には美徳でもなんでもないと私は考えます。貯蓄というものは、ある家庭が、生活に必要なものを充分に使い、生活をエンジョイする方面にも充分に使い、そうして余ったものを貯めるのが、貯蓄だと私は思うのでありまして、着るものをツメる、飲むものをツメる、食べるものをツメるというふうにして貯める金は、貯蓄ではなくして、命のあっちを削り、こっちを削れ、という吝嗇のすすめだと私は考えます。貯蓄とは本来そういうものではないというふうに私は考えているので、勤倹というような言葉、これは最大多数の衆智からでた言葉ではなくって、支配階級からふり下された言葉だと私は解釈しています。」
(山本周五郎「金銭について」)