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Lubricate us with mucus. ──2nd season 盈則必虧編

   汝自己のために何の偶像をも彫むべからず

( ゚Д゚)<末期少女病

「二つ三つ例をあげよう。ひとりの少女がひそかにある男に恋している、けれども、ふたりはまだおたがいに決定的な恋の告白をしていない。両親は彼女に別の男と結婚することをしいる(この強制ばかりでなく、孝行という考えが彼女を左右するのかもしれない)、彼女は両親にしたがう、そして自分の恋をかくす、それは「別の男を不幸にしないためであり、そして彼女が悩んでいることを誰にもけっして知られたくないから」なのである。──若者はたったひとことで、彼の憧憬と彼の不安な夢の対象を手に入れることができるのである。けれども、そのわずかな言葉が家族全体に累をおよぼすかもしれない、それどころか、もしかすると(誰が知ろう)、全家族を破滅させるかもしれない。彼はどこまでも秘めておこうと気高い決心をする。「けっして娘に知られてはならない、彼女がおそらく他の男の手によって幸福になれるように。」この一対の人間が、双方でめいめいそれぞれの恋人から隠れて、おたがいに隠れ合いをしているのは、なんと気の毒なことであろう。そうでなければ、そこにはすばらしい、より高い統一が生じたことであろうに。──この二人の隠れは、彼らの自由な行為であり、彼らは美学にたいしても、この行為の責任を負っているのである。ところで、美学は親切な、思いやりのある学問であって、質屋の番頭さんよりももっとよく便法を心得ている。それでは美学はどうするか? それは恋する者たちにあらゆることを可能にしてやるのである。偶然の助けによって、結婚をもくろむ二人は、それぞれ、相手の雅量ある決心の目くばせをうる。愛の告白となる、恋をとげていっしょになる、そしてそれと同時に、ほんとうの英雄の位までも手に入れる。なぜかというと、彼らはその英雄的な決意のために眠るひまさえ得なかったのであるにもかかわらず、美学は、あたかも彼らが長年のあいだ彼らの企図のために勇敢にたたかいぬいたかのように、見なすからである。」
(キルケゴール『おそれとおののき』)
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