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Lubricate us with mucus. ──2nd season 飛翔編

   Be fierce as fire is fierce.

( ゚Д゚)<禁欲衝動

「……これほどかんたんで、重大な結果になるはずもない行為をなぜ神は禁じるのか、これまでのいつよりもぼくには理解できなかった。とはいえぼくはあいかわらず出かけてはいなかった。ある思考が扉をふさいでいた。数多くの改宗が月並みな肉欲の発作で挫折することをぼくは知っていた。より気楽に性欲をみたすために神から顔をそらす人間はたくさんいる。ぼくはまさにそういう悔いにさいなまれないよう闘ったのだ。自分の運命は自分で裁量するつもりだった。いまここで転落したらぼくは奴隷状態につき落とされ、均衡をくずし、もしかしたら永遠に真理への道を進めなくなるかもしれなかった。しかし激しい欲望にかられた肉体は、執拗に「なぜ? なぜなのだ?」とたずねつづけた。しかしなにも答えられなかった。せいぜいいえるのは、「わからない。しかしやってはいけない。なぜなら、もしかしたらそれは、のりこえられなければ永久に光をかくすことになる大きな障害物のひとつなのかもしれないから」ということぐらいだった。「もしかしたら」にすぎないものが、最悪の渇望にさいなまれて病気になりかねない肉体をひきとめるのだった。
 ぼくはどうにか時間を稼ぐのに成功し、たとえ出かけてもたいして成功する見込みのない遅い時刻までがんばった。しかし落ち着きをとりもどしたどころではなかった。ぼくの激しい情熱は捌け口を求めていた。例のサロンの物語が──すくなくともぼくはそうだったにちがいないと思うのだが──あとになってぼくを、すさまじいポルノへの熱狂にかりたてた。おろかなことにぼくはむさぼるように読んだ。もしかしたら二時間も、野蛮な卑猥さ、のぞき魔の目に映る猥褻行為、たとえば頭二つのペニスの張り形にまたがって腹と腹をこすりあわせている二人の娘というような、騒々しいセックスの乱痴気騒ぎなどに、どっぷりひたりこんだ。もうそれから目をはなすことができなかった。人を堕落させる絶望的な代用品は、激しく興奮させ狂乱におとしいれておきながらなにもあたえてくれない。ぼくは亜麻布のズボンを開きいちもつを抜き出していた。十回もあやうくつかみそうになった。そしてついにつかんだ。それがこの発作でいちばんきつい瞬間だった。……あとのことをおそれる必要はなにもなかった。だれにも知られることはないし、釈明を求められることもない。許しを乞うていたぼくの肉体とぼく自身との秘密だ。せきたてなければならない弛緩。そうなると快楽などはまったくえられず、物理学の命じる純粋なメカニズムの作動にすぎない。しかしぼくは、そういう始動装置が必然的に作動しはじめる状態に意識的に自分を追い込んだのではなかったろうか? 機械的に手を動かすだけ。しかし、娼婦だろうがそういう始動装置だろうが、ぼくにとってはまったくおなじことだった。それにそういう児戯にたちもどったことが、ぼくを深く悲しませることもわかっていた。最後にぼくはかなり力をこめて、甲とも鎧ともなるつぎのような考えを援用することができた──〈静修生活の最初の朝。もしこんなはじめ方をしたら、卑怯者として自分を否認しなければならなくなる〉 そうなのだ、もしこの静修がなにひとつ実を結ばなかったとしても、責められるのは自分自身だけなはずだ。自分が恩寵をおしもどしたのではないかどうか、ぼくにはわからずじまいになるだろう。やっとのことで全身の力をかき集め、浴室にかけこみ、冷たい水を浴びた。海綿体はそうかんたんには降参しなかった。横になった。もしかしたらイヴォンヌの家の例の情景のあとよりも、もっとくたくたに疲れていたかもしれない。そしてのこっていたエネルギーのすべてをこめて神の恩寵を願い、あんな下劣なことにふけったのを嘆いた。
 …………
 今夜の発作をぼくは、予防した病気のように、いわば臨床的に書きとめた。誘惑はそのはじまりで阻止しなければならない。それは明らかなことだ。ぼくはあまりにも気楽にかまえすぎていた。ぼくの戦いは称賛に値するものでさえない。あらゆる警告や掲示板にもかかわらず流砂のなかに入りこみ、ものすごい努力のあと奇蹟的にやっとぬけ出せた人間がいたとしても、そんなばかものがほめられることはない。
 ぼくの静修生活がはじまった。……」
(リュシアン・ルバテ「静修(ミシェル・クローズの覚書)」)
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