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Lubricate us with mucus. ──2nd season 飛翔編

   Be fierce as fire is fierce.

( ゚Д゚)<孤立した鋭い正気2

「今日想像力を失ったブルジョアは恋愛に対して当然鈍感だが、この鈍感につけこんで恋愛を軽蔑するプロレタリヤはまたブルジョア的である、というような論議に俺は大した興味を持ってはいない。いずれにせよ俺は恋愛が馬鹿々々しいような口吻を洩す人間には、青年にしろ老人にしろ同じような子供らしさを感ずる。いずれ今日の社会の書割は恋愛劇には適さない、だが俺に気になる問題は、適すにせよ適しないにせよ恋愛というものは、幾世紀を通じて社会の機械的なからくりに反逆して来たもう一つの小さな社会ではないのかという点にある。
 俺は恋愛の裡にほんとうの意味の愛があるかどうかというような事は知らない、だが少なくともほんとうの意味の人と人との間の交渉はある。惚れた同士の認識が、傍人の窺い知れない様々な可能性をもっているという事は、彼等が夢みている証拠とはならない。世間との交通を遮断したこの極めて複雑な国で、俺達はむしろ覚め切っている、傍人には酔っていると見える程覚め切っているものだ。この時くらい人は他人を間近かで仔細に眺める時はない。あらゆる秩序は消える、従って無用な思案は消える、現実的な歓びや苦痛や退屈がこれに取って代る。一切の抽象は許されない、従って明瞭な言葉なぞの棲息する余地はない、この時くらい人間の言葉がいよいよ曖昧となっていよいよ生き生きとして来る時はない、心から心に直ちに通じて道草を食わない時はない。思うに人が成熟する唯一の場所なのだ。」
(小林秀雄「Xへの手紙」)
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