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Lubricate us with mucus. ──2nd season 盈則必虧編

   汝自己のために何の偶像をも彫むべからず

( ゚Д゚)<誠実の値段2

「だれにも絶対に傷つけられないこと。それは簡単だ。相手が人間でないと思えばいい。実際のところ、人間関係のかなりの部分は利害対立でできている。むしろ、それのみで動いていると考えてもさほど問題はない。俺は、ついにだれからも信頼されることはないだろうが、さりとて他人にとっての利でありつづけるならば、まったく社会生活ができないということもないだろう。
 会話は、すべて駆け引きだ。それは計算である。ならばそれは技術である。かりに、人は注目されたがる存在であるとする。ならば、まず出会い頭で相手に注目していることを伝えればよい。
 俺は、このようにして、ひたすらスキルを磨き続けた。たぶん現在の俺は、話上手といわれる人間だろう。コミュニケーション能力もそこそこに高い。人心を掌握し、ひとつの方向に向かわせる能力も高いだろう。
 しかし、それにもかかわらず、俺は相変わらず対人恐怖症の非コミュだ。もし俺がだれかと親しくなりたいと思ったとする。そのためには自分の好意を表現する必要がある。それは、できない。なぜならそれは恐ろしいことだから。傷つく可能性のあることだから。無理にやろうとすると、非常に無様なことになるが、それを押してでも関係したいのであればしかたない。どんな無様であろうとも、俺は自分の意思を表現する。
 そして俺の培ったスキルを利用するのなら、自分から好意を表現するのはまずい方法だ。好意はあくまでほのめかす程度にとどめておき、相手が自分の利益になったときに、褒めるのがよい。自分への好意があるとして、それは仕事においてどう生かしてもらうか、だけが俺の課題となる。
 俺は、ただ仕事においてのみコミュニケーション能力を必要とした。仕事以外では、なんらの関係を持ちたくなかった。それゆえ、このような結果になった。
 …………
 コミュニケーションを能力として考えるのならば、それはまったく技術であると断言することができる。俺は、仕事で関わるあらゆる人間のことを、感情的には、まったく好きでもないし嫌いでもない。興味がない。
 結局は、人と人の関係に「なにを望むか」なのだと思う。技術をきっかけにし、利害のみで結びついた関係は、それ以上のものをもたらさない。もしそこに利害以上のものを求めれば、かえって深い孤独だけが待っている。
 私があなたのことを好きであり、あなたが私のことを好きであるような関係を求めるのならば、たとえどれだけぼろぼろであろうとも、つまらなくても、とるにたらないものであっても「これが私です」という真実を差し出す以外の方法は、絶対にない。たとえそのことによる弊害がどれほどあろうとも、それ以外の方法はない。技術はごく些細な入口としては役立つかもしれないが、それ以上の局面では、かえって邪魔になる。
 そして、最後に付け加えておくのならば、人と人の関係の真実を支配するものが「本当は利害ではない」と知っている人には、あらゆる技術は役に立たない。そして、おそらくほとんどの人は、本当はそのことを知っているはずだ。あとは、その真実に対する誠実さの違いがあるだけだと思う。
 誠実な人ってね、ほんとに厄介。動かせないし、利用できないし、なにより、油断してると好きになっちゃうね。」
(G.A.W.「コミュニケーション能力」)
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