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Lubricate us with mucus. ──2nd season 盈則必虧編

   汝自己のために何の偶像をも彫むべからず

( ゚Д゚)<秘密の王国

「およそ四年前、私は列車に乗っていた。私の前に、客車のなかに、おぞけを振るうような小柄な老人が座っていた。汚い、そして明らかに意地悪な男。彼の言葉のいくつかが、私にそのことを証明した。こんな男と楽しくない会話を続けることを拒絶して、私は本を読もうと思った。だが、われにもなく、この小柄な老人を眺めていた。男はとても醜かった。男のまなざしが、私のまなざしと、よく言われるように、交差した。そして、その時間が短かったのか、それとも執拗に続いたのかはもう覚えていないけれど、突然私は経験したのである、苦痛な──そう、こんな苦痛な感情を。どんな人間も、正確に──申し訳ないが、私が強調したいのはこの「正確に」というところなのだ──、どんな他の人間とも「等価である」。「どんな者も、その醜さ、愚かさ、意地悪さを超えて、愛されうる」。
 それは、私のまなざしに捕らえられた、執拗な、あるいは素早いまなざしであり、それが私に、このことを説明したのである。そして、一人の男が、その醜さ、意地悪さを超えて愛されうるようにするものが、まさしく、この醜さ、この意地悪さを愛することを可能にしたのだ。思い違いをしないようにしよう。それは、私から出た善意ではなく、一つの承認だった。ジャコメッティのまなざしは、はるか以前から、このことを見ていた。そして、私たちに、そのことを復元してくれる。私は、私が感じ取ったことを述べている。彼の彫像によって明らかにされたこの親縁性は、人間存在が、そこにおいて、そのもっとも還元不可能なものへと連れ戻されるあの貴重な地点なのである。その存在の孤独は、正確に、どんな他者とも等価である。
 …………
 私が理解するような孤独は、悲惨な状態のことではない。それはむしろ秘密の王国であり、深い伝達不可能性であり、それでいてしかし、難攻不落の単独性の、多少とも晦冥な認識のことである。」
(ジャン・ジュネ「アルベルト・ジャコメッティのアトリエ」)
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