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Lubricate us with mucus. ──2nd season 飛翔編

   Be fierce as fire is fierce.

( ゚Д゚)<meta-verity2

「その頃からというもの、戦争は文字通り、一時も止むことはなかった。ただし厳密に言えば、それが常に同一の戦争であったわけではない。子どものときの数カ月間、他ならぬロンドンで錯綜した市街戦が続いたことがあり、その戦闘場面のいくつかは鮮明に覚えている。しかしその戦争の期間全体の歴史を辿ろうとしても、またある時点で戦っていたのは誰と誰なのかを明らかにしようとしても、それはまったく不可能だろう。書かれた記録にしろ口伝えの噂にしろ、現に今成立している敵味方関係以外のものについては、一言も触れていないからである。例えば一九八四年という現時点において(それが一九八四年ならば、だが)、オセアニアはユーラシアと交戦状態にあり、イースタシアとは同盟関係にある。公的にも私的にも、この三強国が現在とは異なる敵味方関係にあった時期があると認めるような発言がなされたためしはない。ところが実際には、ウィンストンがよく知っているように、オセアニアはほんの四年前までイースタシアと戦争し、ユーラシアと同盟していた。ただそれは、彼の記憶が十分に制御されていないためにたまたま手に入った内密の情報の一片に過ぎなかった。公式には同盟相手の変更などという事態はこれまで一度たりとも起きていない。オセアニアは現在ユーラシアと交戦中であり、それ故に、これまで一貫してユーラシアと交戦状態にあったというわけである。現在の敵は絶対的な悪を表現しており、必然的に、その敵と協定を結ぶことは過去、未来を問わず、あり得ないということになる。
 ぎょっとするのは──……それがすべて真実になるかもしれないということだ。もし党が過去に手を突っ込み、この出来事でもあの出来事でも、それが実際には起こっていないと言えるのだとしたら、それこそ、単なる拷問や死以上に恐ろしいことではなかろうか。
 党は、オセアニアは過去一度としてユーラシアと同盟を結んでいないと言っている。しかし彼、ウィンストン・スミスは知っている、オセアニアはわずか四年前にはユーラシアと同盟関係にあったのだ。だが、その知識はどこに存在するというのか。彼の意識の中にだけ存在するのであって、それもじきに抹消されてしまうに違いない。そして他の誰もが党の押し付ける嘘を受け入れることになれば──すべての記録が同じ作り話を記すことになれば──その嘘は歴史へと移行し、真実になってしまう。党のスローガンは言う、“過去をコントロールするものは未来をコントロールし、現在をコントロールするものは過去をコントロールする”と。それなのに、過去は、変更可能な性質を帯びているにもかかわらず、これまで変更されたことなどない、というわけだ。現在真実であるものは永遠の昔から真実である、というわけだ。実に単純なこと。必要なのは自分の記憶を打ち負かし、その勝利を際限なく続けることだけ。それが〈現実コントロール〉と呼ばれているものであり、ニュースピークで言う〈二重思考〉なのだ。」
(ジョージ・オーウェル『一九八四年』)
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