「あれは誰なのか。川岸の並木のしたを行くのは誰なのか。すっかり駄目になったというのは、もはや救いようがないというのは、誰のことか。芝生があのように茂っているのは、誰の墓なのか。いましも、さまざまな夢がたどり着いた。川をのぼってきたのだ。梯子づたいに岸壁をよじのぼる。ひとが立ちどまって、その夢たちと語りあう。夢たちの話題はゆたかだ。ただ自分たちがどこから来たのかは、知らないらしい。この秋の夕はことに穏やかだ。夢たちは川のほうに向き、たかく両腕をあげる。何故だろう。何故いたずらに挙げるばかりで、ぼくたちを抱きとり、そのなかにふかくつつんではくれないのだろう。」
（カフカ「断片──ノートおよびルース・リーフから」）
