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Lubricate us with mucus. ──2nd season 盈則必虧編

   汝自己のために何の偶像をも彫むべからず

( ゚Д゚)<俺たち最強軍団

「男が馬にのって、森の道を進んでいた。その前を犬が走り、後から二、三羽の鵞鳥がつづいて来るが、これは小さな女の子が若枝で追い立てているのであった。前の犬から後の女の子まで、みんなできるだけ道を急いでいたが、速度はいっこうに上がらず、それぞれ他の者とらくに歩調が合うのだった。なお、両側の森の樹木たちも、いっしょに駈けていた。老木ばかりで、しぶしぶ大儀そうに駈けていた。少女にすぐ続いてくるのは、若いスポーツマン、すなわち水泳選手である。彼は、頭をふかく水中に突っこみ、ちからづよいストロークで泳いでいた。彼の周囲にだけ水があり、ひどく波立っていたのである。その水も、彼が泳ぐにつれて前方に流れていた。そのあとから来るのは指物大工であった。机を配達に出かけるところだ。机を背にかつぎ、二本の前脚をしっかり握っていた。そのまたうしろには、皇帝の急使がつづいた。彼は、この森で出会った大勢の人達のために、不運をかこっていた。たえず首を伸ばして、前方の情況をうかがい、何故みんな厭になるほどのろのろ進むのかを知ろうとするのだが、諦めざるをえない。すぐ前をいく指物大工は追越せても、水泳選手をとりまく水をどうして突破することができよう。この急使のあとからは、奇妙なことに皇帝自身がやって来た。まだ青年で、金髪の顎髭をのばし、繊細だがふくよかな顔付きをしている。その顔には、生の喜びがあふれていた。このような大帝国の欠陥が、まさしくこうした点に如実に現われている。皇帝は彼の急使を識っていたが、急使のほうは自国の皇帝を識らなかったのである。皇帝は、ちょっとした休養の散歩に出かけてきたのであったが、彼の急使よりいっこうに速く進めず、こんなことならいっそ密書を自分で届けてもよかっただろう。」
(カフカ「断片──ノートおよびルース・リーフから」)
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