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Lubricate us with mucus. ──2nd season 盈則必虧編

   汝自己のために何の偶像をも彫むべからず

( ゚Д゚)<夢の分子構造5

「二人の友人と日曜日の遠足に行くことを申し合わせていたのだが、ぼくはまったく思いがけなくも寝すごして、落ち合う時刻に遅れてしまった。ぼくのつね日頃の時間厳守を知っている友人たちはそのことをふしぎに思い、ぼくの住んでいる建物の下までやってきて、そこでもまだしばらく待っていたが、それから階段を上ってきて、部屋のドアをノックした。ぼくはひどく驚き、ベッドをとび出した。そして、できるだけ手早く身仕度をすること以外は何も念頭になかった。まもなくきちんと服を着てドアの外へ出て行くと、友人たちはありありと驚きの色を現わして、あとずさりするのだった。「頭のうしろに何を持ってるんだ?」と、彼らは叫んだ。目が覚めたときから、なんだか頭をうしろに傾けようとすると邪魔になるものがあるような感じがしていた。それで今、この邪魔者を手で触ってみた。そのとたん、すでに幾分気を落ち着けていた友人たちが叫んだ、「気をつけろ、怪我をするな!」そのときぼくは頭のうしろで短剣の柄を握った。友人たちはそばに寄ってきてぼくの体を調べ、部屋のなかの箪笥の鏡の前に連れていって、上半身の服を脱がせた。十字架の形をした握りのついた、大きな古めかしい騎士剣が、背中に柄まで突き刺さっていた。それも、刃が奇妙なほど精確に皮膚と肉との間に滑りこんで、切傷を全然つけていないのだった。しかも頸の刺し口のところにも、傷はまったくなかった。友人たちが確かめたところでは、そこには一滴の流血もなく、そして乾いて、ちょうど刃が入るのに必要な裂け目が開いていた。そこで友人たちが安楽椅子の上に乗って、そろそろと一ミリ一ミリその剣を引き抜いたのだが、血は一滴も出なかった。そして頸のところの口を開いた部分は、ほとんど目につかない裂け目を除いて閉じてしまった。「そら、君の剣だ」と、友人たちは笑いながら言って渡した。ぼくはそれを両手に持って重さを量った。それは豪華な武器だった。大方十字軍が使ったのだろう。
 昔の騎士たちが夢のなかで跳梁して見境いもなく剣を振り回し、罪もない睡眠者の体を貫くのだが、それが重傷を負わせないのは、第一にはどうやら彼らの武器が生身の肉体を逸れてしまうためであり、第二にはドアの陰に忠実な友人たちが立っていて、助けるためにドアをノックするおかげだということを、だれが黙って許すだろうか?」
(フランツ・カフカ『日記(一九一五年)』)
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