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Lubricate us with mucus. ──2nd season 盈則必虧編

   汝自己のために何の偶像をも彫むべからず

( ゚Д゚)<ぼくはだれだ4

「ぼくにはもう自分が誰なのか、どこにいるのか、わからない。自分がもう見えない。ぼくの顔は白っぽい、力の無い曖昧模糊とした塊のように見えるだろうと思う。形のないぼろ切れで、かろうじて全体が支えられている塊、だがそのぼろ切れは床に落ちてゆく。
 曖昧な幻影。
 ぼくにはもう自分も、そして自分を取りまいているものも見えない。コップ、窓のガラス、顔、ここやあそこのいろいろな色、そう、非常に目立つけばけばしい色、テーブルの上の受け皿、椅子の背。
 とりわけ物がぼくには現実のものとして見える。コップよりも、それを持ち、高く上げ、置き、消える手の方がよほど脆い。物は別種の堅固さを持っている。
 顔や人物は、内部の、外部の、絶え間ない動き以外のものではない。絶えず作り直されている。そこにはほんとうの堅固さがなく、側面は透けている。立方体でもなければ、円柱でもなく、球でもなく、三角形でもない。動いている塊、歩み、変化していて決してとらえることのできない形だ。そして内部のある一点によって結び合わされたようになっていて、その一点が目を通って我々を見つめている。そしてその点がこれらの顔や人々の現実であるように思われる。ある果てのない空間の中の際限のない現実。そしてこの空間は、目の前の茶碗を支え包んでいる、あるいはこの茶碗によって生み出される空間とは異なっているように思われる。
 これらの顔や人間たちには、はっきりこれだと言える色はひとつもない。」
(ジャコメッティ『エクリ』)
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