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Lubricate us with mucus. ──2nd season 盈則必虧編

   汝自己のために何の偶像をも彫むべからず

( ゚Д゚)<夢のなかで走ろう2

「榎本俊二は、その代表作『GOLDEN LUCKY』、……で知られる、若手のギャグ漫画家である。その作品には、舞踏性に近いダイナミズム、無造作に寸断される身体、単性生殖の主題、生と死の一元化など、緊張病的な素材がいたるところに見いだされる。ここでは内海健氏によって抽出された「緊張病性エレメント」の概念にそくして分析を試みよう。
 内海氏によれば、緊張病的患者の時間は「寸断」と「停止」という、一見矛盾した様相が同居していることによって特徴づけられるという。いっぽう榎本の作品においては、しばしば時間性そのものがテーマとされる。時間の停止すれすれの圧縮と、これとは逆に寸断に至りかねないほど加速された時間性。しかも「停止」を描いた作品では逆に速度性が強調され、逆に加速された時間は「間」を剥奪されてほとんど停止せんばかりだ。残念ながら図版の使用許可が取れなかったため、その実例については単行本を参照されたい。ともかく榎本のように、漫画時間の加速と停止による誇張のみによってギャグを成立させ得た作家は、おそらく前例がない。
 また分裂病者の言語における緊張病性エレメントは、語それ自体の「モノ化」であるとさえる。つまり言語はそれ自体で自足し、隠喩構造や意味連関が希薄になる。この「言語」を「漫画」に置換するとき、榎本の作品に漫画が「モノ化」する様相をみてとることが可能になる。
 通常の四コマ漫画は「風刺」という形式でわれわれの世界とかかわりをもっている。これはなにも政治的な意味に限定されない。共同体において自明とされているルール全体にかかわる風刺性が、「サザエさん」を典型とする四コマ漫画の主要な機能である。榎本の漫画には時事性はもちろん、こうした意味での「共同体との関わり」がいっさい欠如している。ときにはその欠如性じたいがテーマになることもある。こうした連関性の欠如が「モノ化」を促進する。……
 このように榎本の作品世界は「緊張病性エレメント」によって変容をこうむった空間である。」
(斎藤環「妄想漫画事始め」)
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