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Lubricate us with mucus. ──2nd season 盈則必虧編

   汝自己のために何の偶像をも彫むべからず

( ゚Д゚)<Re: 未来への脱出口4

「権力は行為に働きかける行為であり、それは一定の戦略をもって、一定の目的へと向けて、人間に行為させるものだ。だが、そもそもそのように行為させるという戦略と目的は、どうやって発生し、また維持されているのだろうか? たとえば『監獄の誕生』の冒頭では、処刑人が巧みな演出によって罪人を処刑し、それを民衆が眺める、という場面が描かれていた。君主型権力は、このように暴力を見せつけることで民衆を支配する。ところで、フーコー自身が強調しているように、この権力装置は民衆が処刑の場面を見に来なければ作動しない。つまり、身体刑の場面を見に来る民衆は、この権力装置と共犯関係にあるのだ。フーコーは、その装置がどうやって作動しているのかを極めて詳細に分析した。しかし、そもそもこの装置はどうして作動し続けることができるのか? 民衆は見に来ることを強制されるわけではない。民衆は残酷刑の場面を見たいと思って、そこに来る。それはなぜなのか? なぜ彼らはわざわざ残酷なものを見たいと欲望するのか? 仮に同じような刑が都市の真ん中で演じられることになったら、現代の民衆ははたしてかつてと同じようにそれを見たいと欲望するだろうか? 右の引用〔フーコーに宛てた手紙「欲望と快楽」からの一節〕で、ドゥルーズは「欲望のアレンジメントとは、欲望が決して「自然な」決定作用でも「自発的な」決定作用でもないことをはっきりさせるものだ」と述べていた。「アレンジメント(agencement)」とは、ドゥルーズ=ガタリが『千のプラトー』(一九八〇年)で採用した言葉である。これは、複数の要素が組み合わさって(agencer)、一定のまとまりをもったエージェント(agent)として作動するさまを指示するために使われている[*]。民衆の欲望のアレンジメントは、まさしく様々な要因によって決定されているのであって、「自然な」ものでも「自発的な」ものでもない。ならば、或る特定の欲望のアレンジメントがあって、それが特定の権力様式を発生させる、と考えねばならない。
 あるいは、規律訓練型権力。それは、監視することで人に行為させる。しかし、なぜ監視されると人は一定の行為をしようとするのか? それは、そのような行為をしたい、という欲望を抱くからである。……たとえば『監獄の誕生』は学校でのテストや段階的学習の役割を強調していた(第三部、第二章「よき訓育の手段」)。学習成果を可視化するそうした方式が生徒たちを一定の方向に向けて行為させるのだ、と。ところで、そうした学習成果の可視化が生徒たちを動かすのは、生徒たちの中にそもそも「自分だけ取り残されたくない」という欲望があることが前提になっている。そうした欲望のアレンジメントが広く社会に行き渡っている時にのみ、この権力装置は作動する。だから、欲望のアレンジメントがひとたび変化してしまえば、この権力装置は全く作動できない。
 …………
 確かに、権力装置は存在している。しかし、それは欲望の特定のアレンジメントを前提している。しかも、その一構成要素にすぎない。なぜなら、そうした権力装置を作動させているのは特定の欲望に他ならないからである。ここからドゥルーズは、自らにとっては必要だが「ミシェルにとっては必要ではない問い」に答えられるようになる、と言う。すなわち、「権力はいかにして欲望されうるのか?」という問いだ。権力がどのように作動しているのかを描き出す作業は欠かせない。しかし、そこで止まってはならない。その権力がいかにして欲望されているのか、それを問わねばならない。或る権力が発生するのは、それが欲望されるからである。

[*]「アレンジメント(agencement)」は、『アンチ・オイディプス』に続いて出版されたドゥルーズ=ガタリの著作『カフカ』(一九七五年)で導入された概念である。これは概ね、『アンチ・オイディプス』が全面的に依拠していた「機械」の概念に取って代わるものとして採用されており、しばしば「機械状のアレンジメント」という形で登場する。おそらく、「機械」の概念にはやや曖昧さがあり、それに全面的に依拠するのが憚られたことが理由だったと思われる。なお、本文でも示唆したとおり、“agencement”という語には、それ自体が自律的に作動する、という意味が込められているように思われる。「アレンジメント」という訳語は強く客体的な印象を与えるため、あまり望ましいとは言えないのだが、既に普及しているものであることから、本書でもこれを採用した。」
(國分功一郎『ドゥルーズの哲学原理』)
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