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Lubricate us with mucus. ──2nd season 盈則必虧編

   汝自己のために何の偶像をも彫むべからず

( ゚Д゚)<裏切り者の色気2

「教養ある平均的ヨーロッパ人として、あるいは、彼〔カフカ〕の場合同じことになるのだが、同化したユダヤ人として、カフカは当然古典ギリシア作家たちを実によく知っており、ギムナジウムで大いに愛読して彼らの世界になじんでいる──なじんだとはいえ、本当はしんそこ無縁なのである、向う側から彼のもとにやってくるすべてのものがそうであるように。彼らの神話や伝説に、彼は知識人階級の誰にも負けないくらい、あるいは恐らくそれ以上にさえ通じているのであるが、ただ彼にとって、それが、ここでもまた借り物にすぎぬ精神の飾りものにほかならず、その叡智は彼に認識できても、生活を導く上で全く何の役にも立たないのである。そこから、彼の古典的なテーマの換骨奪胎をいたるところで特徴づけている二重の生活が生まれる。即ち、かくも尊敬すべき物語に抱く敬意から行われる換骨奪胎は、はじめ、不動の確信をともなった明晰な調子をもつこと、ついでそれが徐々に狡猾で論理的で、原典のテーマから見て全く突拍子もない疑問を満載するようになり、それらの疑問に圧倒されて伝説の結構がついには崩れざるをえなくなること。こうして、例えば、カフカはわれわれにプロメテウスの伝説を語る、というよりも、敬意の核心へは疑惑を、盲信の口調に対しては冒涜的な疑問を密かに導入して、この伝説を破壊することになるのである。
 …………
 しかし「絶対的に神聖なもの」という、彼によれば〔カフカのマックス・ブロート宛書簡によれば〕ギリシア人たちが神々を発明することによってそれから極力自分たちを守ろうとしたものをひとたび遠ざけてみれば、いずれも多少とも彼の壊しがたい罪の意識に結びついたたくさんの理由から、カフカにもプロメテウスがあまりにもよく理解できるのである。この、元来タイタンの一人で、半神であった英雄が、仲間たちを裏切って人類の恩人となった。このため彼は永劫に続く苦役によって懲らしめられ、この苦役自身が、苦役の遂行のための器官(たえず再生する肝臓)を産みだすのだ。それゆえカフカと同じように、プロメテウスは自分の脇腹にこの裏切りという傷口をもっており、それが世の終わりまで、関係者たちが全員倦み、過ちそれ自体が忘却のなかに埋もれてしまうにもかかわらず続くのである(カフカが疑いもなく予見していたこの傷について──彼は結核を宣告される何カ月も前に、『田舎医者』の一登場人物にこの傷を負託している──、『日記』に書いている。「傷の痛みを生みだすのは、その深さや広がりであるよりも傷の年齢なのだ。生身の同じ切り口をたえず開かれ、何度となく手術した傷口がまたしてもいじくられる、これはあんまりだ」)。癒えることのない傷を負い、生身の同じ切り口をたえず開かれるプロメテウスは、カフカと、より正確に言えばヨーゼフ・Kとも、さらに次のような共通点をもつ──つまり彼の事件が、すっかり忘却されている告発理由のうえに成立していること、その結果、もはや知ることのできない過ちによって彼が罰せられている以上、誰一人として彼の立場を擁護することも、それを単に示してやることさえできないということである。」
(マルト・ロベール『カフカのように孤独に』)
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