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Lubricate us with mucus. ──2nd season 盈則必虧編

   汝自己のために何の偶像をも彫むべからず

( ゚Д゚)<脱出の動機3

「肝心なのは、活動をやめて内省へ向かうことではない。今日のような緊迫した状況では、行動しないこと自体が行動(反動)の一様態となる、すなわち、現状を受け入れることに帰着するからだ。だが、その逆もまた同様に当てはまる。行為は非行為の一様態、すなわち状況に効果的に介入しないことの一様態になりうるのである。ここで浮上するのは偽物の活動という概念である。要するに、人々は何かを変えるために活動するだけではない、人々は何かが起こるのを妨げるために、つまり何も変わらないようにするために行為することもできるのである。これはまさに強迫神経症の典型的な戦略である。強迫神経症患者は、現実的なことが起こるのを妨げるために狂ったように活動的になる。……精神分析治療の場で、強迫神経症患者が分析家に逸話や夢や思いついたことを次から次へと語り続けるのは、そのためである。彼らの止むことのない活動の根底にあるのは、話すのをやめたら、分析家は決定的に重要な質問をしてくるかもしれないという恐れである。言い換えれば、彼らが話すのは、分析家を活動させないためである。
 今日の進歩的な政治全般においても、危険なのは受け身の姿勢ではなく、にせの積極性である。つまり、「積極的」でありたい、「関与」したい、事態の無意味さを糊塗したいという衝動である。人々はなんでも首を突っ込む、「何かをする」。学者は学者で無意味な論争に関与する……。本当にむずかしいのは、前のめりにならないこと、身を引くことである。権力をにぎる者たちは、多くの場合、沈黙よりも「批判的」関与、対話──ただわれわれを「対話」に引き入れること、なんとなく居心地の悪い受け身の状態は脱したとわれわれに実感させること──のほうを好む。何も起こらない、何も変わらないということを確信するために活動し続けるといった、社会的・イデオロギー的生活へのこの種の「相互受動的な」参加に対しては、受動性に後退すること、参加するのを拒むことが、最初の真の批判的手段となる。これはいわば、真の活動の基盤、現状の枠組みを実効的に変える行為の基盤を開くのに必要な最初の一歩である。トランプの勝利に対する左翼の反応についても、これと似たことが言えないか。トランプに対するあらゆる抗議は、トランプ現象が起こりえた原因やいきさつに関する自己批判的な考察をやらずにすます方便になる危険性がある。だからわれわれは、今日の苦境に効果的に介入できるようになるために、一歩身を引いて思考する必要があるのだ。
 …………
 われわれは偽りのパニックを払拭するべきである。つまり、クリントンの明らかな欠点にもかかわらず彼女が支持される原因となった、トランプの勝利に対する極度の恐怖を払拭するべきである。トランプの勝利は、従来の左翼よりもさらにラディカルな左翼にとって好機となる、まったく新しい政治的状況を生み出した。今日のリベラル左翼とポピュリスト右翼は、両者とも恐怖の政治学に捕らえられている。恐怖とは、たとえば、移民、フェミニスト、等々に対する恐怖、あるいは、原理主義的ポピュリストに対する恐怖である。ここでまずなすべきことは、恐怖から不安(Angst)への移行である。恐怖はつねに、自分のアイデンティティにとっての脅威とみなされた外的な対象に対する恐怖である。それに対して不安は、自分のアイデンティティ、つまり自分が外的な恐怖の対象から守ろうとしているものはどこか間違っている、という自覚とともに発生する。恐怖によってわれわれは外的な対象を破壊するように駆りたてられる。それに対して、不安と対峙する方法は、自分自身を変えることである。」
(スラヴォイ・ジジェク『絶望する勇気』)
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