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Lubricate us with mucus. ──2nd season 盈則必虧編

   汝自己のために何の偶像をも彫むべからず

( ゚Д゚)<Saunter Is Dangerous

「「おれのことを今考える必要はないよ。お前は自分とおれとをどういうふうに比べるつもりなのかね? おれはもう二十年以上もこの町にいるんだぜ。それがどういうことなのか、いったい想像できるかね? おれはもうどの季節も二十回もここで過ごしたんだ。」──そのとき彼は弛く結んだ拳骨をぼくと自分の頭の上で振った。──「ここにあるこれらの樹は、二十年間に生長したものだ。人はこの樹の下に立つと、まあなんと小さく見えることだろう。そしてこの二十年間のすべての夜が、いいかね、どこの家にもあったんだぜ。人はこちらの壁際に寝転んだり、あちらの壁際に寝転んだりすると、窓がその人の周囲を移動する。またこの二十年間の毎朝、人は窓から眺め、ベッドから椅子を引き出し、それに腰かけてコーヒーを飲む。またこの二十年間の毎夕、人は肘を突き、手で耳をおさえている。まったくの話、こんなことばかりでなければいいのだがなあ! 人はここのあちこちの通りで毎日見られるような新しい習慣を、せめて二つでも三つでも身につければいいのだがなあ! ──今お前にはおれがそのことで不平を言おうとでもしているように見えるようだな? とんでもない。どうしておれがそのことで不平を言うだろうか、おれにはなんにも許されていないのに。おれは自分の散歩道だけは作らなければならない。そしてそれで十分としなければなるまい。しかしその代わりに、おれの散歩道の作れないような場所はまだ一つもこの世界にはない。だがこう言うとまたもや、これがそれを自慢してでもいるように見えるのだ。」」
(フランツ・カフカ『日記(一九一〇年)』)
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