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Lubricate us with mucus. ──2nd season 盈則必虧編

   汝自己のために何の偶像をも彫むべからず

( ゚Д゚)<Killed by Charity

「〔スタンダールは〕大革命と前後して出生し、幼くして母を失い、父親にことごとく反発し、革命期の理性への熱狂とともに教育を受け、そして十七歳でイタリア遠征軍に参加し、若きナポレオンとともに、ミラノに入城し、ハプスブルグ帝国の支配から北イタリアが解放される様を目の当たりにした。この歴史的な変転のなかで、はじめて青年は恋をし女を知った。軍をやめた青年は、恋愛遊戯とオペラ通いを繰り返し、劇作家になるべく悲劇の執筆を試み、女優と同棲するが成功を勝ち得ず、再び軍旅をおこしたナポレオンとともに、今度はドイツに趣き、絵葉書じみた美しい都市で貴婦人との恋愛を重ね──ペンネームのスタンダールは、ドイツの小邑に由来する──、また、軍をやめてパリで社交生活を重ねながら、今度は絵画史の研究に励んだ。
 ナポレオンが、その帝国を賭けた、もっとも大規模な征服を試みた時に、再びスタンダールはその軍のなかにいた。皇帝の夢が、炎上するモスクワを背景として潰えた時、退却する軍の食糧を必死に調達しながら、自らの青春も終わったことを思い知ったスタンダールは、王政復古のもとで浪人生活を強いられながら、劇作と研究の夢も諦め、小説家に進んで身をおとした。小説は、すでに夢を夢として語ることを許さない社会において、偽善と屈託のなかで生きることを余儀なくされた近代人の精神の全容を捉えられる唯一のジャンルだと思われたからだった。……
 スタンダールの主人公たちを苛んでいる偽善は、私たちにとっては極端すぎるように思われる。しかしもっとも肝要なことは、私たちが今やこの偽善という感覚をすら、なくしてしまった、欺くという手触り、もしくは手続きすらなく、我知らず何の意識もなしに自分自身を徹底的に貶め、踏みにじっているということだろう。」
(福田和也『ろくでなしの歌』)
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