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Lubricate us with mucus. ──2nd season 盈則必虧編

   汝自己のために何の偶像をも彫むべからず

( ゚Д゚)<統合が失調してゐる2

「彼は苦しそうにやっと息をついだ。《だが、これがおれの気のせいだけだとしたら、どうだろう? これがただの幻影で、すべてがおれのひとり合点で、慣れないためにむしゃくしゃして、自分の卑劣な役割にたえられなくなっているのだとしたら、どうだろう? もしかしたら、これはみなふくみのないものかもしれぬ? やつらの言葉はみなありふれたあたりまえの言葉だが、そのうらには何かある……これはみないつどこでも聞ける言葉だが、何かがある。なぜやつはいきなり「彼女の部屋に」と言ったのか? なぜザミョートフが、おれの話しぶりが巧妙だったなんて、つけたしたのか? なぜやつらはあんな調子でものを言うのか? そうだ……調子だ……ラズミーヒンはいっしょに坐っていながら、どうして何も感じないんだろう? あの無邪気なでくはいつだって何も感じやしないんだ! またぞくぞくしてきた!……さっきポルフィーリイがおれに目配せしたようだったが、気のせいかな? たしかに、くだらん。何のために目配せするんだ? おれの神経を苛々させようとでもいうのか、それともおれをからかっているのか? あるいはすべてが幻影か、あるいは知っているかだ!……ザミョートフまでふてぶてしい……ザミョートフはふてぶてしい男だろうか? あいつは一晩で考えを変えた。おれが思ったとおりだ! あいつはここがはじめてだというのに、まるで自分の家みたいにしている。ポルフィーリイもやつを客あつかいしないで、背を向けている。嗅ぎあいやがったな! きっとおれのことで嗅ぎあったのだ! きっとおれたちが来るまで、おれのことを話していたにちがいない!……部屋のことを知ってるだろうか? こうなったらもう早いほうがいい!……おれが昨日部屋を借りるために逃げだしたと言ったとき、やつは聞き流して、何も言わなかったが……しかし部屋のことをもちだしたのはうまかった。あとで役に立つ!……朦朧状態で、か!……は、は、は! やつは昨夜のことはすっかり知っている! そのくせ母が来たことは知らなかった!……あの婆ぁが日付まで鉛筆で書いていたなんて!……嘘いうな、その手にはのらんぞ! だって、これはまだ事実じゃないぜ、幻影にすぎんのさ! もういい、早く事実を出せよ! 部屋の一件だって事実じゃない、熱のしたことだ。やつらに言うことは、知ってるよ……やつら部屋の一件を知ってるのだろうか? それをつかむまでは、帰らんぞ! なんのためにここへ来たんだ? ところでおれはいいまじりじりしている、これはどうやら事実らしいぞ! チェッ、おれはなんて怒りっぽいんだ! だが、それもいいかもしれん、いかにも病気らしく見えて……やつはおれをさぐっている。しっぽを出させようというんだ。なんのためにおれは来たんだ?》
 こうしたことがみな、稲妻のように、彼の頭をかすめたのだった。」
(ドストエフスキー『罪と罰』)
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