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Lubricate us with mucus. ──2nd season 盈則必虧編

   汝自己のために何の偶像をも彫むべからず

( ゚Д゚)<みんなちがって、みんなだめ

「人間の差異は、単に彼らの財産目録の差異に示されているのみではない。すなわち、彼らがそれぞれ異なる財を追求に値すると考え、また共通に承認する財の価値の多少、その順位について互いに意見を異にする、という点に見られるのみではない。──人間の差異は更にむしろ、何が彼らにとって財の真の所有であり占有であると見なされるか、ということにおいて示される。例えば、女〔を所有すること〕について言えば、比較的に控え目な者は、肉体を自由にし、性的享楽を味わうだけですでに、その所有・占有の十分な満足すべき徴と認める。他の者はもっと邪推深く、もっと要求が多い占有欲をもっていて、そうした所有は「疑問符」を伴うもの、単に外見上のものであると見て、一層精細な試験をしようとし、わけても、女が彼に身を任せるだけではなく、更に彼女の持っているものや持ちたがっているものをも彼のために手放すかどうかを知ろうとする。──そのようにして初めて、彼は女を「占有した」と認めるのである。しかし、それだけではまだ彼の不信と所有欲に結末をつけない者もある。彼は自ら女が一切を彼のために棄てても、言ってみれば幻想のためにそうしているのではなかろうか、と疑う。彼はおよそ愛されうるためには、まず徹底的に、いな、どん底までよく知られたいものだと望む。彼は敢えて自分の正体を覗かせるのだ。──彼女がもはや彼について錯覚をもたず彼の親切や忍耐や聡明のためにと全く同じく、彼の魔性や秘かな貪婪のためにも彼を愛するとき、初めて彼は愛人を完全に自分が占有したと感じる。
 また、或る者は国民を占有したいと思う。そして、その目的のためには、あらゆるカリョストロ的、カティリーナ的な術策を弄してもよい、と彼には思われる。更に他の者は、もっと繊細な占有欲をもっていて、「国民を所有したいなら、欺いてはいけない」と自分に言って聞かせる。──彼は自分の仮面が民衆の心を支配しているのだと考え、そのため苛立って耐え切れなくなり、「もはや自分を知らしめないわけにはいかない、まずもって、自分を知らしめないわけにはいかない!」と思う。
 世話好きな慈善家の間には、彼らが助けてやるはずの者をまずもって理想化してかかるというあの愚かしい奸智が見いだされるのがほとんど通例である。例えば、あたかもその者が助けるに「値し」ており、まさしく彼らの助けを求めていて、すべての助力に対して彼らに深い感謝と帰服と恭順を示すかの如く思ってそうするのだ。──このような自惚れをもって、彼らは困窮者を所有物を処理するが如くに取り扱う。彼らは所有物に対する欲求からして一般に慈善的で世話好きな人間なのだからである。彼らは助力が妨げられたり、出し抜かれたりすると嫉妬する。
 両親は識らず知らずに子供を自分たちに似たものにする──彼らはこれを「教育」と名づける。──子供を産んで一つの所有物を産んだのだと心の底で信じない母親は一人もいないし、子供を自分の概念や評価に従わせる権利があることを疑う父親は一人もいない。」
(ニーチェ『善悪の彼岸』)
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