「遅れた人間と先取りする人間。──不信の念にみちていて、競争相手や隣人の運のよい成功にはすべて嫉妬を感じ、自分とちがう意見に対しては乱暴で怒りやすい、というような不愉快な性格は、彼が以前の文化段階に属し、したがって一個の遺物であることを示している、なぜなら彼が人と交わる仕方は、強者が権利をもつ時代の状態にしっくりあてはまるような仕方であったからであり、そういうのが遅れた人間である。ともによろこぶ心に富み、いたるところで友を得、あらゆる成長するものや生成するものを愛情深く感じ、他人のあらゆる名誉や成功をともに味わい、真なるものをひとりで認識するという優先権を要求することはなく、つつましやかな不信の念にみちている、というようなもう一つの性格、──これが人間の高級文化にむかって努めている先取りする人間である。あの不愉快な性格は、人間的交わりの粗い土台がはじめて築かれなくてはならなかった時代に由来しているし、もう一つの性格は、その最高階層で暮らしているのである、文化の土台の下、地下室の中に閉じこめられて荒れ狂い遠吠えしている野獣からできる限り遠ざかって。」
（ニーチェ「ひとりでいる人」）
