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Lubricate us with mucus. ──2nd season 盈則必虧編

   汝自己のために何の偶像をも彫むべからず

( ゚Д゚)<感情教育3

「感情(feeling)とは何か? ……
 まず〈情動に由来する感情〉から考えていこう〔情動に由来しない感情は「背景的感情」と呼び区別する〕と思うが、そのために、前に論じたあなたの情動状態の話に戻ることにする。外部観察者がそれと確認できるすべての変化、そして、たとえば高鳴る鼓動や収縮した消化管のように、外部観察者が確認できない他の多くの変化を、あなたは〈内的に〉知覚している。つまり、こういったすべての変化の信号は、皮膚、血管、内臓、随意筋、関節などからのインパルスを脳に伝える神経終端を介して、連続的に脳に送られている。神経学的な用語で言えば、この旅の復路は、頭、首、胴、四肢に端を発し、脊髄、脳幹へと進み、網様体(いろいろな機能のうちでも、とりわけ覚醒と睡眠の制御に関わっている一群の脳幹核)と視床を抜け、視床下部、辺縁構造、そして、島領域と頭頂領域におけるいくつかの個別の体性感覚皮質へと進んでいく回路に依存している。とくに後者の皮質群は、刻一刻、あなたの身体でいま何が起きているかの説明を受け取っている。つまり、それらの皮質は、一つの情動が起きているあいだ間断なく変化する身体風景の「眺望」を手にするということである。……存在するのは変化、絶えざる変化である。神経活動のパターンは地形図的に構成されているものもあるし、それほどには構成されていないものもある。それらは一つの地図に、あるいは一つの中枢に見いだされるのではない。多くの地図があって、それらは相互に作用しあうニューロンの連結によって調整されている。……
 脳へ戻るあなたの情動状態の「神経的な旅」に加え、あなたの有機体は、それと並行する「化学的な旅」も使う。情動が生じているあいだ身体に放たれるホルモンやペプチドは血流を介して脳にいたり、いわゆる血液-脳関門をとおって、あるいはもっと簡単に、そういう関門をもたない脳領域(たとえば最後野)や脳のさまざまな部位に信号を送る装置をもつ領域(たとえば脳弓下器官)をとおって、脳の中に分け入っていく。つまり、脳は、そのいくつかのシステムの中で、他のシステムにより誘発された身体風景の複雑な神経的眺望を構築するが、その眺望の使い方、そして眺望の構築そのものが、身体により直接影響を受けるということである。……
 身体的変化が起きるとあなたはその存在を知るようになり、その連続的展開をモニターすることができる。あなたはあなたの身体状態の変化を知覚し、何秒、何分と、その展開を追っていく。その連続的なモニタリング・プロセスが、すなわち、特定の内容についての思考が進行しているさなかにあなたの身体がしていることを経験することが、私の言う感情の本質である。」
(アントニオ・R・ダマシオ『デカルトの誤り──情動、理性、人間の脳』)
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