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Lubricate us with mucus. ──2nd season 盈則必虧編

   汝自己のために何の偶像をも彫むべからず

( ゚Д゚)<自殺の舞い、樹の上の司教

「ともあれ、国王の狩猟会では、想像し得るかぎりのものを、いや想像もできないようなものを目にすることができる。見られないのは獲物だけだ。鬱蒼とした森に入っていくと突然、裸の女たちがわっと襲いかかってきた。女たちは私の仮装はよく似合っているけれど、身に着けているものが多すぎると騒ぎたて、私はあっという間に裸にされた。服をまた着ようとしていると、今度は安ぶどう酒をあおった女たちに取り囲まれた。連中はただ面白半分に、たがいの目玉をえぐり、ぶどう酒を飲んでは踊り狂っていた。その間もけたたましく笑いころげ、卑猥なことばを口にした。『あれは、もう何もすることがなくなった御婦人たちです』と一人の少年が私に言った。その丁寧なことば遣いと上品な笑顔に私は少なからず驚いた。『自殺の舞いを舞っているのです。しばらくしたら、みんな死んでいるでしょう』女たちのほうを振りむくと、今度はたがいに相手の腕をもぎ取っている最中だった。このかつての遊女、すなわち貴婦人たちが、どういうわけですべてのものに嫌気がさし、退屈し、うんざりしたあげく、わが身を滅ぼす気になったのか、少年が詳しく説明してくれた。この女たちのことを耳にした国王は、狩猟会の主要なだしものとして狩猟の場でもその舞いを演じるように、ここへ招待したのだった。女たちは一息いれて休んでいるところだった。少年はそばへ行って、女たちの一人ひとりと順番に交わった。それを終えると、いかにも面倒な義務を果たしたという顔で、私のそばに戻ってきた。『どんなときでも快楽は欠かせませんからね』落ち着きはらって少年はそう言った。『……ところであなたは、この狩猟会ではどのような役割をお持ちなのですか? 参加する者はみんな、それぞれ自分の役割を持っています』役割などはない、と私は答えた。ただ、国王にお目にかかりたいのだ。『それでしたら私が、国王のおられるところへ御案内しましょう。あの女たちはもう満足しましたから、しばらく私がいなくても大丈夫でしょう』……私の手を取って、木立のなかの道を案内してくれた。その樹の上には司教が一人ずついて、密やかに祈祷書を読んでいた。『宗教も絶対忘れることはできません。でなければ罪を犯す楽しみがなくなりますし、罪が罪でなくなってしまいます。もし何をしても罪にならないとしたら、私たちはどうなるでしょう。この世の中はどうなることでしょう。だから陛下は、こうして樹の上に司教を置いておかれるのです。司教は狩猟会のいかなる催し物にも参加しません。そうやってただ樹の上にいることで、私たちに罪を犯していることを思いださせ、喜ばせてくれるのです』」
(レイナルド・アレナス『めくるめく世界』)
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