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Lubricate us with mucus. ──2nd season 盈則必虧編

   汝自己のために何の偶像をも彫むべからず

( ゚Д゚)<Re: 思考 OR DIE

「……理不尽に存続する支配権力はさまざまな強制や制約を人間に課すわけだが、そうした強制や制約をすすんで渇望するような種類の人間がいつの間か育って来ている。……ところでこの種の人間は、客観的な仕組みの後押しもあって、本来の建前からすれば予定調和的に不協和音を対置しなければならないような職能までひっさらってしまった。いろんな諺が今では通用しなくなったと言っていいのだが、その中には「押せば必ず押し返される」も含まれている。圧力が大きくなればそれに対する反撥力の方は消滅してしまうというのが当今の実情だ。……学問という名の企業体は、そこで働いている人間の精神状態の中に正確な対応物を持っている。ここに言うのは地金のままで自発的かつ熱心な自主規制者としての実を挙げられるような人たちのことだが、……〔彼らには〕さまざまの思考上の規制の中に敵側の悪意を感じとるなどというのは思いも寄らぬことであって、……物を考えるためには個人的な責任を一身に引き受けなければならないわけだが、生産過程の中に組み込まれた自分たちの立場がその責任を果たすことを妨げているといったような塩梅で、彼らは物を考えることを断念し、身震いしたのち、敵の陣営に走ってしまうのである。思考ぎらいから思考能力の喪失まではほんの一跨ぎだ。認識をサボタージュする目的のためなら統計上の数値を挙げて巧妙きわまる反論を滔々と述べたてるような連中が、この上なく単純な事柄について権威ヲモッテ ex cathedra 実質的な予見を試みる能力を欠いているのだ。彼らは思弁を袋叩きにし、その息の根を止めることで実は健全な良識を殺している。彼らの中の頭のいい連中は自分たちの思考能力が病んでいることにうすうす気づいている。それというのもこれが差し当ってそこらじゅうのありふれた病ではなく、彼らがその働きを切り売りしている器官にだけ現われる病だからである。なかには、不安と羞恥心に戦きつつ自分の欠陥が暴き出されることを期待している向きもある。しかし表向きには当の欠陥が道徳上の手柄としてちやほやされ、彼ら自身にとっては弱点の現われでしかないものが、学問上の禁欲として公認されるような環境の中に彼らは置かれているのである。……しかも彼らの知力は管理体制の締めつけがあるためにいろんな面で高められたのであった。技術的研究者たちの集団的な白痴性はただ知的能力が欠如しているとか退化したということではない、むしろ思考能力の病的な肥大によるもので、思考力自体が肥大のあまり自力で自身を蚕食した結果にほかならない。」
(アドルノ『ミニマ・モラリア 第二部』)
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