「肉体的に貴方を満足させることが、出来るようになろうとなるまいと、或いは、私達の友情にひびが入らぬよう、二人の間に精神的な調和がもたらされるようになろうとなるまいと、たとえ短い間だったとはいえ、私のような者を友達として愛して下さったことに対する私の感謝の念は変わりますまい。それを信じて下さい。貴方の前に出ては思いきって虚飾を捨てようとしました、そんな決心を今までにしたことがなかったことを誓います。わがままな取りのぼせ方をお許し下さい。でも、ロシヤに還って来てから二年間、不幸と嫌悪と絶望とで一杯だった私の心は、貴方のような沈着な我慢強い、世間を知った公平無私な人を見て、幸福に溢れているのです。現在の私は、私に対する貴方の感情が長つづきするかしないかというようなことを全く考えてもみません。しかし、私の性格の汚らわしい面を責めず、私の思っている私より、ずっとましな人間としてつき合って下さったことを、金銭では購えぬものと心に銘じておりますこと、どうぞお信じ下さい。」
（マルタ・ブラウン「ドストエフスキー宛書簡 一八六五年一月」）
