「春樹 ……そりゃね、多くの人に読まれる文章というのは多かれ少なかれ名文ですよ。ただ自分にあった酒や自分にあった音楽があるように、自分にとっての名文というのはある。僕にとっての名文というのは恥を知っている文章、志のある文章、少し自虐、自嘲気味ではあっても、心が外に向けて開かれている文章……というのは少し漠然としすぎているかもしれないですけれど、具体的にそれに近いものをあげていけば、スコット・フィッツジェラルド、カポーティ、上田秋成、少し質は違うけれどレイモンド・チャンドラー、そんなところかな。ヴォネガットもいいですね。」
(村上龍+村上春樹『ウォーク・ドント・ラン』)