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Lubricate us with mucus. ──2nd season 盈則必虧編

   汝自己のために何の偶像をも彫むべからず

( ゚Д゚)<文体における逆説2

「ジャン・コクトオが「職業の秘密」という感想文の中で文体というものに就いて、こんな事を書いていた。「文体というものは、まず大概の人々にとっては非常に簡単なものを複雑に言う術だが、われわれ作家には複雑なものを非常に簡単にいう術なのだ」と。こういう一見奇妙な事になるのは文体が出来上がる前に、人間や事物の見方に関する覚悟が普通人と作家ではまるで違うからであって、人々が文体を作る時に色々な装飾が必要だと考えるのは、人々は現実を普段考えているままに、見ているままに書いてはあんまり簡単すぎる、と思っているからで、それというのも彼等にとっては現実はいつも行動上の様々な規程として或いは知識上の様々な要約としてのみ姿を現しているからなのだ。作家の文章創作の苦心は、単純化の苦心であり、どう粉飾しようかではなく、どう着物をぬごうかという苦心であるのは、ものが見えて法のつかない様な眼を先ず作家は持っているからである。現実の豊富さを先ず心を開いて受け入れるという態度があるからだ。つまり、現実の享受である。享受とは、芸術的稟質そのものだと言えよう。」
(小林秀雄「昭和六年 文芸時評」)
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