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Lubricate us with mucus. ──2nd season 飛翔編

   Be fierce as fire is fierce.

( ゚Д゚)<心の稟質2

「獄中生活は、ドストエフスキイには毒であったとミハイロフスキイは言い、マイコフは薬であったと論じているが、そういう詮索が何を意味するであろうか。いや、ドストエフスキイの様な豊富な柔軟な心にとって、一体経験によって学ぶとはどういう事を意味するのだろう。なるほど、「死人の家の記録」は、「世には経験しなくては理解出来ないある種の事物がある」という言葉の上に書かれた書だ。しかし、世には或る種の人間にしか持つことの出来ない或る種の経験がある。人の心は経験によって豊富になるが、又貧しい心は経験を貧しくするだろう。ドストエフスキイは獄中生活を彼独特の方法で味わったに違いない。この経験には彼の心と彼の心が遭遇した事物との間を結んだ独特な糸があったに違いない。恐らく彼に最も必要だったものはこの糸である。彼が獄中の経験から何を得て来たかという架空な問題から評家は離れるべきだ。
 …………
「自由、新生活、死からの復活、──ああ何んという栄えある時」という「死人の家の記録」の結句を読んだ読者は、これらの記録が、厭人と孤独と狂気とが書かされたアレクサンドル・ペトロヴィッチの手記だった事を思い出す必要がある。この「出来るだけ人から遠ざかることを最大の目的としている人物」から作者は無言で遠ざかる。読者もまた作者が読者を置いて遠ざかるのを如何とも為し難いのである。無気味さが残る、経験から選択せずただ深くこれに傷つく事が出来た人の無気味さが。運命から割引きする事を知らず、ただこれに愛着する事が出来た人の無気味さが。」
(小林秀雄「ドストエフスキイの生活」)
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