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Lubricate us with mucus. ──2nd season 飛翔編

   Be fierce as fire is fierce.

( ゚Д゚)<概念を壊す

「物理学においてもさまざまな横断的架橋が見られる。それは一般に普遍的物理概念という形で知られているものである。その重要な一例は「対称性の自発的破れ」という概念である。対称性の破れ現象は物質科学のレベルでも、一分子の構造レベルでも、素粒子物理学のような超微視的世界でも共通して現れるきわめて普遍的な現象である。物質科学のレベルでは相転移現象にこれが現れる。たとえば、液体が冷えて結晶化する相転移は対称性を破る相転移である。結晶には結晶軸があり、それに沿って分子が整列しているが、液体にはそのような方向性というものはない。したがって、結晶化に際してどの方向に分子が整列するかはあらかじめ決まっていない。しかし、結果的にはある方向が選ばれる。すなわち、液体がもともともっていた空間的対称性が自動的に破れたのである。対称性の破れという視点から見ると、このような相転移は磁気相転移や超伝導転移をはじめさまざまな相転移に共通して見られる現象なのである。そしてそれは共通した数学的構造をもつのである。これによって互いに縁が薄いと思われていた物の間に関係が生じる。まして一分子の構造や、量子論的な場の対称性の破れまでを含む共通の数学的構造ともなれば、この種の関係形成はモノ的視点に立つ系統樹的分類による関係形成とはよほど違ったものであることがわかるであろう。
 唐突だが、比喩には大別して隠喩(メタファ)と換喩(メトニミー)とがあるという。もみじの葉によって赤子の手を表すのは隠喩であり、ポストによって手紙を表すのは換喩である。隠喩では、関連づけられる二者は普通の意味において近いものではなく、したがって関連性は伏在しているが、換喩においては二者の近接性はあらわである。これらの言葉を用いれば、横断的物理概念による物の結びつきは一般に隠喩的であると言えよう。なぜなら、そこでは惰性的に分節化された自然像においては互いにはなはだしく隔たった一群の物が、それらに伏在する共有の構造をとおして関連づけられるからである。これに対して、分類学的関連づけは一般に顕在的な性質の近さにもとづいている点で換喩的と言えるであろう。横断的物理概念による描写は物への密着性が弱いことも大きな特徴である。いわば「もの離れ」した自然の見方がそこでは強調されるのである。これは先にも予告的に述べた「述語的統一」に軸足を置く自然描写への接近を示唆している。隠喩・換喩にしても主語的・述語的統一にしても、人間の精神活動全般に関わる二つの基本軸の現れと考えられるが、科学的描写という限定された営みに対しても、これらを参照軸として眺めれば良い見通しが得られるように思う。そして、物質の周縁制御に関わる複雑世界の科学描写においては、隠喩的ないし述語統一的性格がいっそう濃厚になると思われるのである。」
(蔵本由紀『新しい自然学──非線形科学の可能性』)
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