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Lubricate us with mucus. ──2nd season 盈則必虧編

   汝自己のために何の偶像をも彫むべからず

( ゚Д゚)<勝利ゆえの不感症

「私がウイルス学を捨てる決心をするには、まだ多少の事情がある。
 昭和三十五年末、教授の助手殴打事件を契機に、ウイルス研究所には「研究委員会」が生まれ、ここで研究を行うものすべてによって所長選挙が行われ、また研究費を持って、行きたい研究室に行って研究ができた。京大ではほぼ同時に「教室憲章」撤回要求を機会に「内科第一講座の反乱」が起こった。これらが後の学園紛争と異なる点は、目的を明確に限定し、達成と同時に収拾すること、個人攻撃を行わないこと、ビラなどを配らず、決してマスコミに漏らさないことをある段階で相手に態度でわからせることであった。ことに、最後の点を明らかにすると、たいていの人は非を認めて屈する。これらが歴史に残っていないのはそのためである。
 しかし、勝利したキャンペーンは内部から腐敗する。兄貴と呼びたいような良い先輩が「ナカイ、俺はこんど教授になれるだろうか」とたずねてこられた時、私は「これはいけない」と思った。「私はたいへんな怪物を作ってしまった」と。私が東京へ去った大きな理由である。いずれにせよ、四十一、二年には全国的な学園紛争がこの小さな研究所にも「V共闘」を作り、すべてはその中にのみこまれた。その時は私はもういなかった。結局、最初の専門を守って大学に生き残った者は、優秀なうえに恐ろしく守りに強い一人しかいない。……」
(中井久夫「Y夫人のこと」)
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