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Lubricate us with mucus. ──2nd season 飛翔編

   Be fierce as fire is fierce.

( ゚Д゚)<偶然の精度

D・S かつては、見事な絵を破棄してしまうことがよくありましたね。良い作品だからこそ、もっと良くしようと手を加えたのはいいが、絵の具を塗りすぎて手の施しようがなくなってしまったということでした。そういうことが以前と比べて少なくなったのですか。
F・B そうですね、あなたの言うように、以前は作品に手を加えようとして泥沼に入り込むことがよくあったのですけれども、今はずっと狡猾に技術を使えるようになったので、そういうことはなくなりました。手を入れても、苦境に陥って抜け出せなくなることはありません。うまく作業を続けられるようになったのですが、それだけでなく、若い頃よりずっと偶然まかせに描くようになりました。たとえば、多量の絵の具をカンヴァスに投げつけて思いがけない効果を得る、といったやり方をしています。そういう方法を昔よりよく使います。
D・S 絵の具は筆につけて投げつけるのですか。
F・B いいえ、手で投げます。絵の具を掌に絞り出して、それを投げるのです。
D・S 以前はぼろきれをよく使っていましたね。
F・B 今でもよく使いますよ。何でも使います。たわしとか、ほうきとか、これまでに画家が使ったことがあると思えるものは、すべて使います。いつの時代にも画家はあらゆるものを使ってきました。調べたわけではありませんが、レンブラントも非常に多様な道具を使ったに違いありません。
D・S 絵の具を投げるときは、絵がある程度できていて、さらに発展させたいと考えてやるのですか。
F・B ええ。自分の意思では発展させられないのです。可能性はふたつしかありません。絵の具を投げつけて、一応できあがった絵や半ば完成した絵を再構成するか、筆を加えて、とにかく自分にとってより強烈な作品にするか、です。
…………
D・S たわしやぼろきれなどの使用についてはどうですか。ぼろきれはたびたび使うのですか。
F・B 使います。
D・S 一度描いたものを消すためにですか。
F・B いいえ、消すためではありません。ぼろきれに絵の具をしみこませて、絵に網目模様をつけるのです。しょっちゅう使っている方法です。
D・S 絵筆を自由に使いこなせるようになれば、制作を中断してほかの道具を使う必要がなくなるとは考えられませんか。
F・B ほかの道具を使うのは、まさに制作過程を中断するためなのです。常に流れを断ち切るよう心がけています。私が絵を描く作業の半分は、すらすらとできることを中断することです。……あなたには理解できないようですが、制作中に絶望的な状態になると、ありきたりの写実的な絵にならないよう、絵の具を使ってほとんどありとあらゆることをやるのです。つまり、ぼろきれやブラシでカンヴァス全体をこすったり、何でもかんでも使ってゴシゴシやったり、テレビン油や絵の具などを投げつけたりして、理性に基づいて描いた明瞭なフォルムを破壊しようとします。そうしていくうちに、フォルムがいわば自ら変化していって、私が作った形ではなく、自分自身の形におさまるのです。そうすると、自分が何を欲しているのかがわかってきて、カンヴァス上の偶然の産物に手を加えられるようになります。たぶんこうした過程を経て、自分の意図だけに基づいて描いた場合より有機的な絵ができるのです。」
(デイヴィッド・シルヴェスター『肉への慈悲──フランシス・ベイコン・インタヴュー』)
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