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Lubricate us with mucus. ──2nd season 盈則必虧編

   汝自己のために何の偶像をも彫むべからず

( ゚Д゚)<フリーでないアルバイター

「遊牧科学と労働の関係は王道科学の場合と同じではない。遊牧科学では分業の程度がより少ないというのではないが、分業の仕方が王道科学とは別なのである。「職人組合」、すなわち石工や大工や鍛冶師たちといった遊牧的ないし移動的諸団体と国家の関係が常に問題を孕んでいたことはすでに述べた通りである。労働力を固定し定住させること、流路を指定して労働の流れを規制し、有機体という意味の協調団体に成形すること、そしてそれ以外のことについては単純強制労働(現場で召集される賦役であれ、貧窮者から募集される救済作業場であれ)に頼ること──これこそいつも群れの放浪性と団体の遊牧性を同時に打ちまかすことを念願する国家の主要な事業の一つであった。ここでゴシック建築の例にもう一度戻って、職人組合員たちが、あちこちに大聖堂を建築し、工事現場を増殖させながら、国家にとっては疑いもなく不都合な能動的かつ受動的力能(運動性とストライキ)を保持したまま、どれほど広範囲に旅をして動き回っていたかを思い出してもらいたい。それに対する国家の側の反撃は、工事現場を管理し、あらゆる分業のなかに、「支配者-被支配者」の差異を模写して、知的なものと手仕事的なもの、理論的なものと実践的なものという至高の区別を持ち込むことである。王道科学にも遊牧科学にも平面〔図面〕は存在しているが、それは同じものではまったくない。職人組合員たちによってじかに地面の上に引かれたゴシック建築の図面に、工事現場から離れて建築家が紙の上に引く計量的図面が対立し、存立あるいは構成の平面に、組織と形成の平面が対立するのである。さらに角切りによる石切りに、複製すべきモデルの設定をともなうひな型による石切りが対立する。ただ単に、王道科学においてはもはや熟練労働は必要とされないと言うべきではなかろう──むしろそれは非熟練労働を、熟練労働の非熟練化を必要としていると言うべきなのだ。そうかといって、国家は知的労働者あるいは設計者の側に自立した権力を与えるわけではなく、反対に、彼らを国家に密接に従属した一機関〔器官〕にしてしまうのである。そうなれば彼らの自立性など白日夢のようなものだが、それでも、複製を作ることか命令を実行することしかできない肉体労働者からあらゆる力能を奪い去るには十分なのだ。にもかかわらず国家はみずからが産み出したこの知的労働者たちの団体とのあいだに軋轢を経験しないわけにはいかない。この団体は新しい遊牧的な政治的主張を持ち出してくるからである。いずれにせよ国家がたえず遊牧的マイナー科学の抑圧を余儀なくされ、漠然たる本質と特徴線を扱う操作的幾何学に対立するのは、遊牧科学の不正確ないし不完全な内容のためでも、その待つ術的ないし秘義的な性格のためでもなく、それが国家の分業に対立するような分業を孕んでいるせいなのである。分業に関するこの差異は外面的なものではない──一つの科学または科学の着想が、社会的領野の組織化に参与する仕方は、とりわけそこに分業を誘導する仕方は、この科学そのものに所属する事柄である。王道科学は、質料を組織する形相と、形相のために準備された質料を同時に含む「質料-形相」的モデルと切り離せない関係にある。この図式が、技術または生活から派生したものであるよりも、支配者-被支配者、さらに知的労働者-肉体労働者に分割された社会に由来することはしばしば指摘されてきた。この図式の特徴は、質料の全体が内容の側に割り当てられて、形相はすべて表現の側に移っているということである。遊牧科学は、内容と表現のそれぞれが形相と質料を有するものと見なしているために、内容と表現の連結に対して、より直接的に敏感であるように思われる。したがって、遊牧科学にとって、質料は決して準備された、それゆえ等質化された質料ではなく、本質的に特異性をになったものである(これが内容形式を構成する)。そして表面もまた形相であるといっても、関与的特徴と切り離せないものである(これらが表現質料を構成する)。これは、後で見るように、まったく別の図式なのである。こうした事態を多少なりとも思い浮かべるには、遊牧芸術の最も一般的な特徴、すなわち質料-形相の弁証法の代わりに支持材と装飾の力動的連結が支配していることを想起するだけで十分であろう。それゆえ、芸術とも技術とも見なされるこの遊牧科学の観点からしても、分業は十全な意味で存在しているが、それは「質料-形相」の二元性(たとえ両者の間に一対一の対応があるとしても)を模写した分業ではない。むしろ遊牧科学の分業は、質料の諸特異性と表現諸特徴のさまざまな連結にしたがうのであり、自然なものであれ強いられたものであれ、これらの連結に即して設定される。これは国家のそれとは別の労働の組織であり、労働を通じて別の社会領野が組織されるのである。」
(ドゥルーズ+ガタリ「遊牧論あるいは戦争機械」)
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