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Lubricate us with mucus. ──2nd season 盈則必虧編

   汝自己のために何の偶像をも彫むべからず

( ゚Д゚)<未来への脱出口4

「……明白な機械を含むテクストは、……何らかの具体的な社会的-政治的なアレンジメントに接続されなければ展開されない。……
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 技術的機械はそれ自体、その前提となる社会的アレンジメントにおける一部品でしかなく、社会的アレンジメントこそが「機械状」と呼ばれるに値するということ、このことは別の側面に私たちの注意をうながす。要するに、欲望の機械状アレンジメントは、言表行為の集団的アレンジメントでもあるということに。だからこそ『アメリカ』の第一章は、ドイツの火夫の抗議にあてられ、火夫は彼のすぐ上のルーマニア人の上司に不平を言い、ドイツ人が船上で被っている抑圧に抗議するのだ。言表は、服従、抗議、抵抗等々に関するものであり、全面的に機械の一部である。言表はいつも法的であり、つまり規則にしたがって作られる。まさにそれは機械の使用法を構成するからである。それは言表の差異が些細なことだという意味ではない。逆に、それが反抗なのか、嘆願なのか知ることはとても重要なのだ(カフカ自身が、事故の犠牲になった労働者たちの従順なことは驚きだと言うだろう。「会社におしかけて、みんな略奪してしまうかわりに、彼らは嘆願しにやってくる」)。しかし嘆願にせよ、反乱にせよ、服従にせよ、言表はいつも機械がその一部をなしているアレンジメントを分解するのである。言表それ自体が機械の一部であり、こんどはみずから機械を構成し、全体の作動を可能にし、あるいはそれを変更し、あるいは爆発させてしまう。『審判』で、ある女がKに尋ねる。あなたは改革がしたいの? 『城』においてKはたちまち、城との「戦闘」態勢に入る(そしてあるヴァージョンでは戦闘の意図がもっとあからさまに現れている〔「発端部の異稿」〕)。しかしいずれにしても分解の規則にほからない規則があって、それをみると服従が大々的な反乱を隠していないかどうか、戦闘はむしろ最悪の同意をもたらさないかどうか、もはやよくわからないのだ。三つの長編小説において、Kは自分が驚くべき混沌のなかにいるのに気づくのである。彼は機械の歯車にしたがう技術者あるいは機械工であり、アレンジメントの言表にしたがう法律家そして訴訟好きな人物である(Kを見たことのない叔父がKに気づくには、Kが話し始めるだけでいい。「おまえが私の可愛い甥なんだね、そうじゃないかと思っていたんだ」)。欲望の社会的アレンジメントではない機械状のアレンジメントはないし、言表行為の集団的アレンジメントではない欲望の社会的アレンジメントはないのだ。
 カフカ個人は境界線上にいる。彼は単に古く新しいふたつの官僚制のあいだの蝶番のところにいるだけではない。彼は技術的機械と法的言表の蝶番の位置にもいる。彼は同じアレンジメントにおいて二つが結合していることも体験するのだ。〈社会保険〉において、彼は労働災害、機械のタイプによって異なる安全の係数、労使の紛争、それらに対応する陳述などを担当している。そして確かにカフカの作品において問題になるのは技術的機械それ自体ではなく、法的言表それ自体でもない。そうではなく技術的機械は、社会野全体にあてはまる内容形式のモデルを提供し、法的言表は、あらゆる言表にあてはまる表現形式のモデルを提供するのだ。カフカにおいて本質的なことは、機械、言表、欲望が唯一の同じアレンジメントの部分をなし、長編小説に無制限の動力と対象を与えているという点だ。カフカが、ある種の批評家たちによって過去の文学に属するものとされるのを見るのはつらいことだ。たとえそれに関して一種の〈全書〉とか、〈普遍的図書館〉といった観念や、断片ゆえの全体的〈作品〉というような観念を考え付いたところで。これはあまりにフランス的な見方なのだ。ドン・キホーテと同じことで、カフカのこだわりは決して書物のなかにあるのではない。彼の理想の図書館には、技術者や機械技師の本、そして陳述をおこなう法律家の本しかない(さらに彼の愛読する何人かの作家たちがいるが、それは彼らの天才のため、しかも秘密の理由のためなのだ)。彼の文学は過去を横断する旅ではなく、私たちの未来の文学である。二つの問題にカフカは熱中する。最悪にせよ最良にせよ、どういう瞬間にひとつの言表は新しいと言われるのか。悪魔的であろうと、無垢であろうと、あるいはどちらでもあろうと、どんなときに新しいアレンジメントが姿をあらわしていると言えるのか。最初の問題の例。「万里の長城」の乞食が、隣りの地方の革命家たちが書いた宣言をもってくるとき、そこに使われている記号は「私たちにとって古代的な特性をもち」、私たちは「もうすっかり昔から知られていて、すっかり昔に忘れられている古めかしい話」を口にするのである。第二の例、すでに扉をたたいている未来の悪魔的勢力、つまり資本主義、スターリン主義、ファシズムである。カフカはこういったものすべてに耳に傾けるのだが、それは本のなかのざわめきではなく、隣接する未来の音であり、欲望、機械、言表である新しいアレンジメントのどよめきであり、それらは古いアレンジメントの導入され、あるいはそれらと絶縁するのだ。」
(ドゥルーズ+ガタリ『カフカ──マイナー文学のために』)
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