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Lubricate us with mucus. ──2nd season 盈則必虧編

   汝自己のために何の偶像をも彫むべからず

( ゚Д゚)<砂漠に降る雪

「確かに、条里空間にも平滑空間にも、点、線、平面などは同じように存在する(立体も存在するが、いまのところこの問題には触れずにおこう)。ところで、条里空間では、線や行程は点に従属する傾向にある。われわれは一つの点からもう一つの点へと進むのだ。平滑空間においてはこれが逆になる。つまり点が行程に従属するのだ。遊牧民における衣服-テント-外の空間というベクトルがすでにそうだった。住まいは行程に従属し、内の空間は外の空間に適合する。テント、エスキモーの氷の家、船。平滑なものにおいても条里化されたものにおいても、停止があり行程がある。しかし平滑空間にあっては行程の方が停止を導くのであり、ここでもやはり、インターバルがすべてであり、実質をなすのはインターバルなのである(リズム的価値はここから生まれる)。
 平滑空間ではこうして、線はベクトル、方向となり、次元や計量的決定因ではない。これは方向の変化をともなう局所的操作によって作られる空間なのだ。この方向変化は、列島の遊牧民に見られるように、その経路の性質自体に負うこともありうる(「方向づけられた」平滑空間の場合)、しかしそれよりも、局所的かつ一時的な植生に向かう砂漠の遊牧民の場合のように、目標または到着点の可変性によることが多い(「方向づけられない」平滑空間)。だが、方向づけられていようといまいと、特に第二の場合、平滑空間は方向性であり、次元性もしくは計量性ではない。平滑空間は、形式化され知覚されたものによってよりも、はるかに出来事または此性によって占められる。それは所有の空間ではなく、情動の空間である。それは光学的空間であるよりも、把握的空間だ。条里化されたものにおいては形相が一つ一つの質料を組織するのに対し、平滑なものにおいては質料が力を指示するか、または力の徴候となる。それは外延空間ではなく強度空間、単位をもたない距離の空間だ。外延ではなく、強度的内包なのだ。有機体や組織である代わりに、器官なき身体なのだ。そこでの知覚は、単位測定や所有によるよりも徴候や見積りによる。だからこそ平滑空間を占めるものは、さまざまな強度、風と音、さまざまな力や触覚的音響的な質なのだ。砂漠、ステップ、氷原のように、氷の割れる音や砂の歌でみたされる。反対に、条里空間を覆っているのは、測定単位としての空であり、そこから生まれる測定可能な視覚的性質である。
 ここで海が非常に特殊な問題として考えられるべきだろう。なぜなら、海こそはすぐれて平滑空間でありながら、ますます厳しくなっていく条里化の要求にきわめて早くから直面してきたからである。この問題は陸に近いところで発生するものではない。反対に、海の条里化が行われたのは外洋航海においてであった。海洋空間は、天文学と地理学という二つの成果にもとづいて条里化された。星と太陽の正確な観察の上に成立つ一連の計算によって得られると、経線と緯線、経度と緯度を交差させて既知もしくは未知の地域を囲む地図によって。ポルトガルの主張にしたがって、一四四〇年頃を、最初の決定的な条里化が起き、大発見が可能になった転回点とすべきだろうか。われわれとしてはむしろ、ピエール・ショニュにしたがって、長期間にわたって、平滑なものと条里化されたものが海上で対立し徐々に条里化が定着していったと考えたい。というのは、経度による位置確定はきわめて新しいものであり、それ以前には、まず、海の風、波、色、響を頼りにしたあらゆる種類の経験的かつ複合的な遊牧的航海術が存在し、次に、前-天文学的または天文学的な方向性をもつ航海術が現われるが、これは操作的幾何学に頼り、「現在の地点を定める」可能性をもたずに緯度だけを頼りに操作し、「全面的翻訳可能性」をもたないので、真の地図とは言いがたい海図だけを使っていた。この原始的天文航海術はその後、まずインド洋における緯度上の特殊な条件のもとで、次には大西洋の楕円状航路において進歩する(直線空間と曲線空間)。あたかも、海は単にすべての平滑空間の原型であるだけでなく、最初に条里化をこうむった空間でもあるかのようだ。条里化は徐々に広がっていき、あらゆる場所、あらゆる面を碁盤割りにする。商業都市の参加により、この条里化が革新されることもしばしばだったが、国家のみがこれに成功し「科学による政治」のレベルにまで引き上げたのである。一つの次元的なものが、少しずつ確立され、方向的なものを従属させ、それを蔽ってしまったのである。
 おそらくこんなふうにして、平滑空間の原型である海は、同時にあらゆる平滑空間の条里化の原型となったのだ。砂漠の条里化、空の条里化、成層圏の条里化(それゆえヴィリリオは方向転換として「垂直方向の沿岸」について語っている。……そして、世界的組織の平滑空間に関してさえも、それに対抗する形で生まれる新たな平滑空間または多孔空間があるのではないか。ヴィリリオは、「鉱物層」における地下住居の出現という例をあげているが、これは実にさまざまな価値をもつものと見なされている)。」
(ドゥルーズ+ガタリ「平滑と条里」)
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