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Lubricate us with mucus. ──2nd season 盈則必虧編

   汝自己のために何の偶像をも彫むべからず

( ゚Д゚)<意味のない人生

「「それにしても君たちは、自分の視点からしかぼくらを判断できないんだろうか? やはりそうなんだね? ときおり君たちは、キリスト教徒としての君たちの魂から神が突然脱け出してしまった状態を思い描き、そういう空虚、空白のイメージをまえにして恐怖にかられ、後ずさりする。ぼくたちはその空虚、空白を自分にかくしている。耳と目を自分でふさいでいる、ぼくたちの不信仰を説明するのはそれだけだ──君たちはそう信じこんでいるんだ。しかしぼくらはこう答えることができる──人間につきもののその空虚、その空洞を、ぼくたちも知らないわけじゃない、しかし君たちはそこに君たちの形而上学という時計仕掛けを据えつけた、あるいは君たちの信仰という漠然とした麻くずでその穴につめものをしてしまったんだ、と。してみると、ぼくたちは暗い不安と危惧を忘れるためにじたばたし、わめき叫んでいるのだという考えを、君たちの頭からとり去ることはどうしてもできないんだろうか? ぼくたちには洞察力があるという感情、いっさいの希望はぬぐい去られているけれどもこれほどにも活力をつけてくれる感情、いかにも不完全ではあるけれども、それでもおよそ人間が主張できるなかではもっとも完璧な洞察力、そういうものを君たちも知っていたら… 君たちよりずっと遠くをみているという確信があるんだ、というのも君たちは目のまえに巨大な壁を築いて、そこに君たちの空を描いているにすぎないんだから… 人生の意味を探して人生を抹殺してしまうより、意味のない人生のほうを選びとるんだ。レジス、ぼくたちのほうこそ君たちの臆病さを非難できるんだ。君たちは夜の闇と対抗するために、安上がりなランプを作った、そう言えるのはぼくたちのほうなんだ。なぜなら、君たちにとってもぼくたちにとっても問題はおなじ、生きねばならぬということにかわりはないんだから… しかしぼくたちは君たちの生存手段だけで自足するわけにはいかない。わかりすぎるほどわかっているのだ、人生は君たちが避難所として逃げこんだ体系をはみ出すものであり、そんな体系を否定するものだとういことが。ああ! 自分ではそんなことはやるまいと心に誓っていたのに、意に反して、ぼくはまたしても論争にもどってしまった。しかしそう望んだのは君のほうじゃないだろうか。わかるだろ、こういうことについては、もう絶対になにも話さないほうがいいんだ」
「なにも君をとがめる気はない。君は思った通りのことをいってるんだと思う。ぼくも今日は出口のないいい争いをはじめようとは思わない。しかし、なんて君は気の毒なんだろう! 宗教についてどうしてそれほど誤った考えをもてるんだろう。宗教のゆたかさと大きさと広がりを、それほど知らないなんて、どうしてできるんだろう… いっさいの信仰の外でさえ… もし君がクローデルにたずねてみたら! カトリック信仰のなんという普遍性! 彼を読めば、指でふれるみたいにはっきりわかる」
「とんでもない! クローデルなんておしゃべりなだけさ。彼の言葉偏重主義にそれなりのメリットと活力がなくもないことはぼくもみとめる。しかし彼の言葉の皮をはいでみろよ。核を探してみろよ。いってみれば中身はなんにもない。ぼくにいわせれば彼ほど固くとざされた、鈍感な、狭量な精神の持主はいない。リヴィエールとの往復書簡を読むだけで十分だ」(しかも資本主義を奉じる大使としての彼とそれとを折りあわせなくてはならない、ああ! そんなのはうんざりだ!)
「『昼間に分かつ』は知ってる? せめてこのシーンをぼくに読みあげさせてくれ。聞いてくれ…」
 …(ほらきた。息はずませる唱句はまぬがれないな。…無信仰なぼくが、こういう教権支持の美辞麗句と正反対の地点にいることを容認できないほど彼はおろかで頭が固くならなければならんのだろうか? 残念ながらぼくらはこういう状態からぬけられそうもない。彼はなにもかも調子を狂わせてしまう。五十回も経験すれば、ぼくには十分だったはずではないのか? いったいいつになったらぼくは、こういうこっけいな感情の高まりから身を守れるようになるんだろう? ここでなすべきことなんて、ぼくにはなにもない。彼を憎んではいない。彼を憎むなんて絶対にできないだろう。彼がぼくを愛していることはわかっている。彼のなかには、よくわからないけれども人間的な基盤のようなものがあって、ぼくの憎しみもそれをこえることができないのだ。さっきだって、彼が彼女をぼくにゆだねるといったとき… しかし彼の霊魂を包む外皮がぼくに嫌悪感をおぼえさせる、あるいはうんざりさせる。あの外皮はもはやずっとまえから彼と切りはなせないものになっている。最初からそうだったのかもしれないが。ぼくはむしろ彼がかわいそうだと思う。彼は気が弱くなった。降参したのだ。贋の詩篇の拍子をとるためのあの仕種… 坊主だ! 坊主! 坊主!)
「…これがカトリックであると同時に宇宙的でもあるのでなかったら! そうなのだ。それはぼくにもわかる… しかしどうしても理解できないのは、君みたいな知性の持主が生について語るのに、それが一種の絶対であり、それ自体が価値をもつかのような話をしはじめるときなんだ」
「君たちが信仰という言葉を使うように、ぼくは生という言葉を使う。それは、もうひとつのほうとおなじく、いささか漠然とした、あまりにも伸縮性に富む言葉だ。しかし信仰という言葉にくらべれば、生のほうはすくなくとも、単純でありながらさほど窮屈さを感じさせないし、巨大で説明不可能な現象を指し示すというメリットをもっている。ぼくはその言葉を大文字で書きはじめようとは思わない。〈生の司祭〉に扮装するつもりなんかぼくにはないんだから」」
(リュシアン・ルバテ「間奏曲」)
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