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Lubricate us with mucus. ──2nd season 盈則必虧編

   汝自己のために何の偶像をも彫むべからず

( ゚Д゚)<非美学

「椎名麟三のエッセイに戦時中に出会ったある純真な青年が出てくる。彼は国家のために死ぬことを無上の光栄と考えていた。ある晩、二人は空襲警報のなか夜空を眺めていた。椎名が地球に激突するやもしれぬ彗星の話をすると青年は恐怖にこわばった。国のために死ぬのは恐れないのに、彼は何を恐れたのか?
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「その彼の顔の、恐怖にこわばっているのが、星空の光にあきらかに見られて、私は不思議な気がしたものである。国家のためなら死んでもいいと勇ましくいいきれる彼も、この世界のなくなるということには耐えられなかったようなのであった。」(椎名麟三『私の聖書物語』)
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“お国のために死ぬ”。それは“美しい”死だし、また、死ぬことを光栄に思ってしまう国こそが“美しい”国なのだ。かつて日本はそうだったし、いままたそのような“美しい国”へ戻ることを為政者と支持者たちは心から望んでいる。だが、彗星がブチ当たって地球が消えるという即物性の“美”のなさよ!
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純真な青年は、単に星と星がブチ当たり滅亡するというミもフタも無さ、死を光栄と価値づけする超越的な審級(それは天皇であり、国民総員であり、国柄であり悠久の大義であり……)すら宇宙のチリと吹き飛ぶような物自体の露呈に、己が殉じようとした“美”のペラさを知覚し、ゾッとしたのではないか。
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私自身、世界の紛争地に足を踏み入れて覚知したのは、このような戦争の、戦場で死ぬことの、“美”(信念、意味と言ってもいい)の底抜けの深淵だった。いくら目をこらしてもそこには漆黒しかない、無底である。だが、人間は、戦場から隔離された場所ではいくらでも空想した“美”で自慰できてしまう。」
(nos/unspiritualized「Twitter拾遺」)
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