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Lubricate us with mucus. ──2nd season 盈則必虧編

   汝自己のために何の偶像をも彫むべからず

( ゚Д゚)<自然描写の異常進化4

「第10章で述べたように、今日多くの紛争地帯に特徴的な状況として、非戦闘員による茂みの中での戦闘、暴動、反乱といったことがある。こうした中で、外科医は放置されたり誤った処置を受けたりした創傷によく出会うようになった。有効な応急処置はなされず、医師や看護師は少なく、医療サービスは貧困と紛争によって破壊されている。病院までの道のりは遠く、複雑な地形によって搬送は妨げられる。来院患者の多くは受傷後24時間以上が経過している。中には何日も、また何週間もたってから来院する患者もいる。たとえ受傷してすぐに病院に辿り着いたとしても、傷病者の数が多い場合には外科施設の収容限度を超えてしまうことや、外科医の対応速度を超えてしまうこともある。結果的に、治療が著しく遅れたり、明らかに間違った処置がなされることがある。
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 治療が遅れた場合でも、グレード1の軟部組織外傷は自然に治癒しているものもあるが、ほとんどの創傷は炎症を起こしたり、感染して慢性敗血症を来し、また高度に化膿するものもある。こうしたケースは間違った処置を受けた傷によく見られる。破傷風、ガス壊疽、侵襲性溶連菌感染症を伴う危険性は常に念頭に置かねばならない。こうした創傷をみた場合は、積極的に創切除を行う必要がある。
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 放置された創部には蛆がわいていることが多い。「蛆虫療法」に関する記述、特に慢性創傷部に対する治療法としてのそれは昔からあり、今日でも世界中の多くの外科医が実際に行っている。しかし文化的にも精神的にも、多くの患者はこうした治療を快く思わない。この治療法はICRCの経験上、時に有用ではあるが、ここではそういう事例もあると述べるに留める。
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 放置された創傷部に見られる慢性化膿性敗血症は、独特の症状や細菌学的特徴、臨床経過を見せる。細菌が個別のコロニーを形成するのは研究室内においてのみである。自然界の細菌は、淘汰の過程を経て、腐骨や壊死軟骨といった無機物の表面に付着する。慢性感染症において、細菌は細胞外多糖を分泌してバイオフィルムを形成する。このバイオフィルムとは、河川で岩の表面に見られる「粘性物質(スライム)」である。このバイオフィルムは細菌を保護し、抗菌剤だけでなく、感染を絶とうとして増殖するマクロファージや白血球、抗体が、細菌を侵食することを防ぐ。
 細菌はそのライフサイクルの中で、静止期にバイオフィルムを分泌する。このバイオフィルムを物理的に破壊し、壊死組織を外科的に除去することが必要である。……
 …………
 外科的切除は、こうした創傷を扱う際には、より難しい処置となる。組織の生死の境界線は、筋や筋膜の浮腫のため、より不明瞭になる。特に腫脹した筋と筋膜では難しく、また外傷後の炎症性の充血部は、感染症の炎症とバイオフィルムによって、よりややこしくなる。遺残空洞内の弾丸によって「モザイク状に」損傷された組織のみならず、敗血症の変化も加わるため、適切な切除範囲を決めるのはさらに難しくなる。受傷から何日も経過して化膿した創内では、感染巣と治癒に向かう線維組織が混在している。
 こうした創傷部では、剥離した軟部組織や骨片、骨折した長管骨の断端、異物片、線維組織などが混在した腔を、膿の膜が覆っているといった様相を呈していることが多い。強固な線維組織による創の拘縮のため、切除部に到達するのが困難な場合もある。
 しかしながら外科処置の原則は同じである。皮膚と深部の筋膜は大きく切開し、創傷腔は適切な視野と十分なドレナージを得られるように開放する。外科切除はすべての壊死組織、汚染組織、異物片の除去、そしてバイオフィルムの物理的破壊を目指して行う。」
(『武力紛争やその他の暴力を伴う事態における資源が制限された中での医療支援 vol.1』)
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