「それから最後にもう一つ。損得というのは関西人的といわれているかもしれないが、患者を説得する際、「それは君、損だよ」とサラリというほうがいいことが多い。なぜなら善悪を持ちこむと、一方が善なら他方が悪になりますから。善悪を家庭に持ちこむと、家庭の精神健康は悪くなりますね。損得はそうじゃなくて、一方が得すれば一方が損をするという単純なものじゃない。「三方一両損」〔落語の一。三人がそれぞれ一両を損して、円満に事を納める話〕ということもあるし、痛み分けということもあるし、それぞれが得をするということもありうる。弾力性のあるもので、現実への目も開かれる利点もあります。」
(中井久夫「家族の臨床」)